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「・・・リア様・・・。ジュリア様!」
エリーナの声で目を覚ますといつの間にか外が暗くなっているようだった。
「・・・もう夜・・・・?」
ふと体を起こしながらつぶやくとそっと体を支えてくれながらエリーナが返事をくれた。
「はい。そろそろお夕食のお時間ですよ」
にっこりと笑い答えてくれたエリーナが私の顔を見ると一瞬驚きに変わり今度は苦笑に変わった。
「・・・ジュリア様。すぐに布をお持ち致しますわ」
そう言ってエリーナは一旦部屋を出た。
なぜ?と、頭を捻るうちにエリーナは再び部屋へと戻って私にそれを渡した。
「・・・・冷たい」
「はい。それで目元を冷やされると宜しいですわ」
やはり苦笑気味に笑うエリーナに言われて、瞼が腫れている事に気付いた。
「・・・・・ありがとう」
エリーナの気遣いに礼を言うとエリーナは首を横に振った。
エリーナは何も言わないが、この顔を見た時点で私が泣いていた事はバレバレだろう。
だけど、何も言わないでいてくれる事が今はありがったかった。
「ジュリア様。お食事はお部屋の方へ運ぶように手配致しましたので、ゆっくりされて下さいね」
いつの間に手配したのか、私の状態をすぐに読み取りそう言った気遣いをしてくれるエリーナに思わず抱きついた。
「エリーナ。いつもありがとう。・・・本当に、貴方がいてくれると心強いわ」
エリーナの腰をギュッと抱く私はまるで子供の様だ。
だけど、いつも傍にいてくれるエリーナに思わず甘えたくなるくらい私の心は弱っていた。
「・・・・いいえ。私はいつでもジュリア様の為に・・・」
そういうとそっと背中をポンポンと叩いて私を落ち着かせてくれる。
たった一つ年が上だと言うのに、エリーナはまるで母親の様だった。
「・・・・私ね・・・。やっぱりこの国を出るわ・・・・」
私はそうポツリと言うとエリーナの手が止まった。
そして、そっと私はエリーナの腰から離され、エリーナは膝をついて私と同じ目線になった。
「・・・・かしこまりました。ジュリア様のお心のままに」
そう言ってにっこりと笑ってくれたエリーナに私は再びギュッと抱きついた。
そう、私はさんざん泣いた後決めた。
この国を去る事を。
リアーシャ様はきっとクラウス様を幸せにして下さる。
クラウス様も想い続けたお相手とやっと幸せになれる。
それならば、私はこの国を去った方がいい。
お世継ぎが生まれればすぐに私が去った事も風化されてしまうだろう。
そう考え、私は決心した。
城を出るのは1ヶ月後。
それまでに、私は国に戻るか、他国へ亡命するか決めなければいけない。
その間に私は王妃としての仕事を終わらせ、リアーシャ様に引き継ぐ事に決めた。
すべてを投げ出していては民に迷惑がかかるであろう事から。
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城へ戻ってきて、リアーシャ様の元へ訪ねて以降はずっと部屋に籠りっぱなしだった。
その理由はもちろん城を出る為の準備に追われていたから。
祖国に迷惑がかからない様、クラウス様に迷惑がかからない様あちこちに手を回す必要があった。
そんな中、久しぶりにこの部屋へ訪ねてきた人がいた。
「・・・無事で何よりです。貴方がたの活躍は私も伺いました。良くやってくれました。アルバート」
フィーナ国で舞踏会のパートナーとして参加できないと告げられて以降、国の為に働いていたアルバートが城へ戻ってきた報告と挨拶にやって来ていた。
「その節は王妃様に多大なるご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありませんでした」
頭を下げるアルバートに顔を上げるように促す。
「気になさらないで。あなたはこの国の為に働いたのです。謝る事など一つもありません。それよりも、ゆっくり体を休めて頂戴」
にっこり笑うとアルバートは再び頭を下げた。
「はっ!ありがたきお言葉・・・。・・・・王妃様・・・・」
お礼を言って下がるはずのアルバートが私を呼びとめた。
その事に少し嫌な予感はしたのだ。
「・・・何かしら?アルバート」
「はい。国王より言伝を申し遣っております。本日の午後いつもの時間に執務室へ来るようにと」
そう言うとアルバートは三度頭を下げ、今度こそその場を後にした。
私の返事を聞く事無く・・・・・・。
「・・・・つまり、これは命令ってことね・・・・・」
零れる溜息。
私はいよいよクラウス様に会わなければいけない事実に肩を落とすしかなかった。
城を離れる準備はもちろん、体調が優れないからと言ってクラウス様を避けていたのも事実だった。
「・・・いつかは呼び出しが来るとは思っていたけれど、いざ本当にそうなるとなかなか覚悟が決まらないものね」
誰にも聞かれる事無く一人苦笑と共につぶやく言葉に思わず本音が紛れ込んだ。
しかし、どちらにしても会わなければこの先話は進められない。
「エリーナ!」
そう言ってエリーナを呼ぶと私はいつもの様に鏡の前に座った。
「・・・ジュリア様?どちらかにお出かけでございますか?」
傍にやってきたエリーナは不思議そうに鏡越しに私を見つめた。
「ええ。クラウス様から呼び出しがあったわ。あのメイクでお願い」
それを聞くとエリーナは少し顔を引きつらせたが、すぐにメイクの準備を始めた。