13
その夜、一人ベットで考え込んでいた。
今日はきっとリアーシャ様の所へ行くのだろう。
そう思うと、自然と涙があふれ出てくる。
散々我慢していたんだ。
一人になって泣ける場所は今この時しかなかった。
「・・・っく・・・ひっく・・・」
やっと自分から離れる決心をしたと言うのに、どうしてリアーシャ様が現れるんだろう。
クラウス様は本物のリアーシャ様を見てきっと気付いたに違いない。
あの時恋に落ちたのがリアーシャ様だと言う事に。
そう考えると、今日見た2人の姿が頭から離れない。
「・・っひっく・・・どう・・・・して・・・・・っく・・・」
あきらめろと何度自分に言い聞かせても涙があふれ出して止まらない。
どのくらいの間、そうして泣いていたんだろう。
「・・・・・ジュリア」
ベットに潜り込んで泣いていた私の横にギシリと音を立ててベットが沈み、聞きなれた声が聞こえた。
その声に私は驚いて固まった。
「・・ジュリア。そのままでいいから聞いてくれるか?」
声を抑える為、頭まで潜り込んでいたシーツをそっとなでる彼の手がシーツを通して私の体に伝わってくる。
私は声を出す事も出来ずそのまま固まっていた。
「・・・・君はとても驚いただろうね?君の祖国の人間を側室にしてしまって・・・・」
クラウス様は私を撫でながら話し始めた。
「だけど、私も驚いた。君にそっくりな彼女が目の前に現れた時・・・・。大臣達が私が君に夢中な事を知ってそっくりな彼女を見つけ出したらしい」
クラウス様の言葉にシーツを握り締める手に力が入る。
そっくりなのは当たり前だ。だって、それは私がリアーシャ様の真似をしていたのだから。
「・・・だけど、彼女と君は違う。そうだろう?ジュリア」
私を撫でていたぬくもりがふっと消えて沈みこんでいたベットが軽くなる。
私は慌ててシーツから飛び出すと、目の前には怒りに震えるクラウス様の姿があった。
「私を騙していたな!!お前みたいな女は二度と顔も見たくない!さっさとここから出ていけ!!」
私を睨みつけるクラウス様の姿に私は思わずその場から逃げだしたくなった。
「・・・・ジュリア様!!」
エリーナの声に目を開けると、窓からは光が差し込み外では鳥の声が聞こえていた。
「・・・夢・・・・?」
未だ覚醒しきっていない私にエリーナが水を差しだしてきた。
「大丈夫ですか?とてもうなされておいででしたが・・・・」
差し出された水を受け取り一口口をつけると、私は思っていたよりも喉が渇いていたらしくコップ1杯の水を全て飲み干した。
「・・・・とても・・・怖い夢を見たわ・・・・・」
まるで、現実にあった様に・・・。
再び沈む気持ちにエリーナは明るい声をかけてくれる。
「では、気分転換にお庭に出られてみてはいかがでしょう?今日はとてもいい天気ですよ?」
エリーナの言葉にふと窓の外に目をやると、綺麗な青空が広がっていた。
「・・・・・そうね」
窓の外に目をやったまま私は頷いた。
こんな綺麗な青空が広がっている外を見ていても、気持ちは晴れなかった。
それでも、頷いた私を見てエリーナは私をベットから下ろし鏡の前に座らせる。
「・・・エリーナ・・・・」
鏡の中の自分に目をやったまま私は告げる。
「・・・今日はリアーシャ様のメイクはしないで・・・・」
私の言葉にエリーナは驚く事もなく返事をした。
夢の影響だろうか。これ以上クラウス様を騙す事が出来なかった。
あんな風にクラウス様に言われてしまうのなら、いっそ本当の姿を見せて嫌われたかった。
それとも、もう私には興味も持ってもらえないだろうか・・・。
知らず知らずのうちに俯いてしまう頭にエリーナから声がかかるまで気づかなかった。
「ジュリア様。お顔を上げて下さい。お化粧が出来ませんわ!」
ハッと顔を上げるとそこにいた私は、フィーナ国の時と同じ本来の姿をした私だった。
「・・・・ジュリア様?どんな夢を見られたのかわかりませんが、その夢の通りになるとは限らないのですよ?今は貴方がするべき事をなさってください」
鏡越しにそう話しかけるエリーナの言葉の意味がわからなかった。
「私は何があったてジュリア様のおそばにおりますから」
そう言ってにっこり笑ったエリーナの笑顔に少し心が軽くなった気がした。
「・・ありがとう、エリーナ」
「いいえ。さて、出来ましたわ。次はドレスですね!んー、今日はお天気もいいですしオレンジのあのドレスに致しましょう!」
そういうとエリーナはクローゼットへと入っていった。
「・・・・私がするべき事・・・・・」
エリーナの言葉に私は考える。
今私がしなければいけない事って何?
王妃の座をリアーシャ様に譲る事?
クラウス様に本来の姿を見てもらう事?
ううん・・・。どれもなんだか違う気がするわ・・・。
「・・・・・リアーシャ様・・・・・・」
そう、彼女がなぜここに来たのか。
彼女の為にここに来たのにどうして彼女がここにいるのかまずは知らなければ。
もし、何か企んできたのだとしたら・・・・。
この国の王妃としてそれは見逃せない。
最後になるかもしれないこの事は私がやらなければいけない事。
「エリーナ。ドレスはオレンジではなく赤にして頂戴」
するべき事が見えた今、彼女に対抗する為には弱気に見えない様少しでも強く見せたかった。