12
「・・・・ュリア様!ジュリア様!!」
エリーナが呼ぶ声に私はハッとした。
「・・・えっ・・?なに?」
ふと周りを見渡せばいつの間にか自室に戻っている。
さっきまで舞踏会の会場となった広間にいたはずなのに、いつの間に自室に戻って来ていたのだろう?そう思いながらきょろきょろしていると、私の事を心配そうに見つめるエリーナの姿があった。
「・・・大丈夫ですか?ジュリア様」
「・・・私、いつの間に戻ってきたのかしら・・・・?」
噛み合わない会話にエリーナの顔が歪んだ様な気がしたが、すぐにエリーナは答えをくれた。
「・・・半刻程前に・・・。トレース国王様がここまで送って下さいました」
「・・・・そう。トレース陛下に・・・・・」
陛下には申し訳ない事をしてしまった。
あまりの出来事にまったく何があったか覚えていない。
「エリーナ。トレース陛下は何かおっしゃてた?」
粗相があってはいけないとエリーナに聞いてみるがエリーナは首を横に振った。
「・・・いいえ。お疲れの様だから早く休ませてやってくれとおっしゃって戻られましたが、他には特に何も・・・・」
エリーナの言葉に手を顎に当てて考え込んだ。
もしかしたら、何か気付かれたかもしれない。
「ジュリア様・・・。舞踏会の方で何かあったのですか?」
考え込む私の顔を心配そうにエリーナは覗きこんでいた。
「・・・リアーシャ様がいらっしゃったわ」
顔をあげるとエリーナにそう告げた。
「リアーシャ様ですか?この舞踏会にご招待されていらっしゃったのですか?・・・・伺っておりませんでしたわ」
首をかしげるエリーナに私は首を振る。
「・・・・リアーシャ様が側室としておいでになったのよ・・・・」
「そうですか。ご側室に・・・・・・・え!?」
思ってもみない私の言葉にエリーナは目を見開いた。
「え!?ご、ご側室に!!?い、一体どういうことですか!り、リアーシャ様が!?」
軽くパニックに陥っている彼女に私は更に言葉を重ねた。
「・・・・・私は王妃の座を譲らなければね・・・」
その言葉にエリーナは動きを止めた。
そうかと思うとまるで錆びついた扉の様にギギギっと音がしそうな雰囲気でこちらに向き直る。
「王妃の座を・・・・?ジュリア様。一体どういうことなんでしょうか?」
訳がわからないと言った状態でエリーナは私にそう問いかけた。
「あなたも知っての通り、私はリアーシャ様と間違えられてこちらに来たのよ。本物のリアーシャ様が現れた今、私は必要がないもの・・・」
苦笑気味にそう言うと、エリーナの顔がみるみる青ざめていく。
「まさか・・・。そんなはずありませんわ!!クラウス様はジュリア様の事を愛しておいでですわ!この1年側におられたのはジュリア様ではありませんか!!」
エリーナの目には涙が浮かんでいた。
「・・・それでも、クラウス様が恋した人はリアーシャ様ですもの。彼が幸せになるのには私ではだめなのよ。ちょうど良かったじゃない。私はもう彼の側にはいる事に限界を感じていたのよ。彼が幸せになるのなら喜んで王妃の座を差し出すわ・・・・」
彼女が現れた時には確かにショックを受けた。
クラウス様の側に寄り添っていたリアーシャ様があまりにも自然で、私が居たところは始めからなかったのではないかと思うくらいに。
そんな私の言葉にエリーナは口をパクパクさせていたが、何かを思いついたのかハッとした顔をして声をあげた。
「し、しかし!!り、リアーシャ様はご婚約されていたのでは!?」
エリーナの言葉に今度は私がハッとさせられる番だった。
確かにそうだ。
まだ、私がここに嫁ぐ前には他国の王子と恋に落ち2人は結婚するはずだった。
それが今になってなぜ、この国に側室として来たのだろう。
それはなぜ私の元へ知らせがなかったのだろう。
エリーナの言葉に、やっと私はその事に思い当った。
「・・・確かにそうだわ・・・・」
彼が幸せになるのならば・・・・その場をリアーシャ様に譲れる。
彼といたらリアーシャ様が幸せになれることも、私は側に居た1年で確信できる。
だけど、もしそうでないのなら・・・?
「リアーシャ様はどうしてここに来られたのかしら・・・」
私の言葉にエリーナは頷く。
「本当にそうですわ・・・。リアーシャ様にはウィルト殿下がいらっしゃったはずでは」
ウィルト殿下・・・・?
「エリーナ・・・・。あなた、リアーシャ様の婚約者を知っているの?」
私の言葉にエリーナは目を丸くした。
「え!?ジュリア様ご存じなかったんですか!?」
エリーナの勢いに思わず後ずさってしまう。
「えっ・・・ええ・・・・」
てっきり皆知らないものだと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「・・・公爵のご令嬢ともあろうお方がご存じないとは。まさか、ここまで、世間知らずだったとは・・・・。はぁ・・・」
額に手を当て首を振る仕草は懐かしい。
結婚前、家に居た時にはよくされていた。
「・・・・だって、誰も話してくれなかったんですもの・・・」
頭を垂れる私の姿に、エリーナは溜息をつきながらリアーシャ様の婚約者の事を詳しく教えてくれた。
「・・・つまり、元々仲があまり良くなかった国の王子と恋に落ちて反対されていたのに、リアーシャ様とそのウィルト殿下がその場を収め2人の結婚により友好を深める事となったのね?」
確認するように私はエリーナに訪ねた。
「はい。その様に伺っておりますわ。ジュリア様が嫁ぐ少し前には婚約をしておられます」
「ええ。婚約をした事は私も、リアーシャ様から直接伺ったわ。でも、まさかそんな出会いだったなんて・・・」
私がリアーシャ様に聞いていたのは、旦那さまとなられる方がいかに素敵かというのろけばかりだった。
「そこまで想い合って婚約されたのに、どうしてここに・・・・」
再び2人の姿が思い浮かんでくると、胸が締め付けられるようだった。