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王妃の秘密  作者: 睦月
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控室を出ると、再び別の個室へと案内される。


「では、私がお2人のお名前を読み上げましたら、こちらより広間へと降りて下さい」


エルステリア国宰相ダグラス・ルーベンスから舞踏会の説明を受ける。

舞踏会では王族が名前を呼ばれた順に、2階の王族席より階段を下り広間の王座へと登場する。

今回は主役がクラウス様と側室の姫君になる為、彼らが一番最後だった。

その前が前国王夫妻。つまり、クラウス様のお父様とお母様だ。

そして、その前に降り立つのが私とトレース陛下となる。


「・・・ジュリア殿?」


ふと聞こえるトレース陛下の声に自分が考え込んでいたのだと気づかされる。


「・・・はい?」


周りを見て見ると先程まで説明をしていたダグラスの姿は見えず、私の前にトレース陛下が見下ろす様に立っていた。

座っている私と目が合うとトレース陛下は仕方ないなと言いたそうな顔をしてふっと笑った。


「・・・ダグラス君の説明を聞いていたかな?」


その問いに私は頷く。


「はい。私達は王弟君の後に広間に降りればよいのですよね」


そう言ってトレース陛下を見上げると陛下はこくりと頷く。


「・・・・その後は?」


そう問われると首をかしげるしかなかった。

その後はと言われても、後は前国王夫妻とクラウス様達が降りてくるのを待つしかない。


「・・・ダグラス君は君に心を乱さない様にと言っていたのは聞いてなかった?」


優しくそう聞かれ、私は首を振った。


「・・・申し訳ありません。聞いておりませんでした・・・・」


ダグラスが言った言葉の意味よりも、自分がぼーっとしていた事に申し訳なく思い頭を下げた。

ダグラスの言うその言葉に深い意味があったとは知らずに。


「いいや。構わないよ。・・・・自分の夫と側室の舞踏会だ。心を痛めるなと言う方が無理だったね。辛いようだったら、いつでもいいなさい。早めに引き上げよう」


トレース陛下はそう言うと幼子にする様に頭に手を置く。

その行動に目を丸くしながらも陛下の心遣いに心が温かくなった。


「・・・まぁ!トレース陛下!私は子供じゃありませんよ?」


少し睨むようにトレース陛下を見上げると、彼は肩をすくめごめんごめんと謝った。

そして、再び左手を差し出した。


「さぁ、行こうか」


その言葉とほぼ同時に、宰相の声が聞こえた。


「・・・フィーナ国国王トレース・フィーナル様。エルステリア国王妃ジュリア・エルステラ様」


トレース陛下の左手を取った。


「・・・・宜しくお願い致します」


一言告げるとトレース陛下は頷き、私達は階段上に姿を見せた。

広間に見える人々は我が国の貴族を始め近隣諸国より招待された人々で埋め尽くされていた。

人の多さに圧倒されそうになりながらも、横で手を振るトレース陛下に続き私も優雅に手を振った。

すると、隣りから小声でトレース陛下の声が聞こえた。


「さぁ、下に降りるよ」


トレース陛下のリードによってゆっくりと階段を降りると、先に席についている人たちに挨拶をしながら私たちも自分たちの席に着いた。

それを見計らった様に、前国王夫妻の名前が呼ばれた。


「・・・大丈夫かい?」


広間の人々が前国王夫妻の登場に目をやる中、トレース陛下は相変わらず私を気遣って声をかけてくれていた。


「はい、お気遣い頂いてありがとうございます」


にっこりと笑って答えるとトレース陛下もにっこり笑って頷く。

ふと視線を前に向けると、すぐそこに前国王夫妻の姿が見えていた。

先に席に着かれていた方々に挨拶をしながら、どんどん近づいてくる前国王夫妻は、数えるくらいしかお会いした事はなかったが、人柄がよく、いつも良くして下さっていた優しい義父と義母だった。

そんな、彼らがすぐ近くまで来ると私はにっこりと笑って挨拶をした。


「お義父様、お義母様、ご無沙汰しております」


「うむ、ジュリア。元気そうで何よりだ」


義父の言葉に胸が痛む。


「お義父様もお変わりなく。随分とご無沙汰をしてしまい申し訳ありません」


「いや、気にしなくてもいい」


義父の言葉ににっこりとほほ笑み返事をすると、彼らも自分たちの席へ向かった。

ふぅと誰にも気づかれない様に小さな溜息をついて、前国王夫妻をちらりと見ると義父が義母を気遣いながら椅子に腰をおろしていた。

前国王夫妻の間にはクラウス様と弟君のシルヴィ様2人の王子がいた為、側室はいなかった。

その為か2人の代には争いごとも起きず、クラウス様が成人を迎えると、前国王は早々に国王の席をクラウス様に譲り義母と2人で余生を楽しんでいた。

嫁いだばかりの頃はそんなお2人の様になりたいと心から思っていた。


「・・・・エルステリア国国王クラウス・エルステラ様!」


宰相が呼んだ愛する夫の名前に私は我に帰ってそちらを見上げた。

階段上には、にっこりと優しい表情で手を振る夫の姿が見え、ひさしぶりに見るクラウス様の姿に心がときめいた。

しかし、その次の瞬間私は息が止まりそうになるくらい驚いた。

クラウス様の横に並ぶ女性の姿。

その女性は慣れた様に広間にいる人々に手を振って微笑んでいた。


「・・・・ジュリア殿?」


私の様子に気づいたのか、隣りからトレース陛下が声をかけてくれているが、私はそれに答える事が出来なかった。

私の目はその女性に釘づけになり、無意識のうちに両手を胸の前で組み力が入るあまり震えていた。


「・・・ジュリア殿?どうされましたか?」


隣りではしきりに声をかけてくるトレース陛下も全く私の視界には入っていなかった。


「・・・・ど、どうして・・・・・・」


私の言葉が聞こえたのか、トレース陛下が私の肩に手を置こうとしたその時、宰相の声が広間に響き渡った。


「この度、新しくご側室として迎えられましたイングランシャ国王女リアーシャ・イングヴァル様!」


その瞬間、階段上に居るリアーシャ様と目があった気がした。

だけど、今の私の目には何も映っていなかった。

彼の心を奪った本人が現れた。私の存在意義はこの瞬間なくなってしまったのだ。




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