デェジョブ
私の母方の祖父がまだ若かった頃の話。
ある日、畑を新しく開くという知り合いに頼まれて、祖父は牛を連れて畑起こしの手伝いに行った。
一日、牛と一緒に畑起こしの作業をして、お礼にいくらかのタバコと自家製の濁酒と作物をもらい、それを牛の背に乗せて帰り道についた。
帰り道とはいってもそのあたりは山深いところで、山林の中の獣道と変わらない様な道だった。
その山の中を牛を引いて歩いていると
「……」
祖父はふと、何か同じところをぐるぐると歩いている様に思えてきた。
いや、実際に同じところをぐるぐるとしている様だった。
これだけ歩けばもう山の道を抜けて、自分たちの家が見える下り道に出るはずなのだが。
山の中の日暮れは早く、すでにあたりは暗くなってきていた。
「はぁて」
こりゃ、狐か狸の仕業かいや?
祖父はそう思い、これはまず一服して様子を見にゃならんな、ともらった濁酒を一口飲んであたりを見回した。
すると
「デェジョブ(大丈夫)」
祖父のすぐ後ろで、牛がそう言った。
「おぉ?」
祖父は牛を振り返り、牛の額をペンペンと叩いた。
「おめ、今何か言うたか?それとも狐か?」
しかし牛は祖父にはこたえず、自分でノソノソと前に出て引き綱を持つ祖父を引っ張る様に歩き出した。
「ほぅ。おめぇが案内してくれるのかい」
祖父は素直に牛の後ろを歩き出した。
そしてしばらくも行くと、祖父の家の近くまで出て来た。
「山で道に迷うやろ。そしたらな。馬や牛や……犬でもええ。先に立たせて歩かせるんや。そしたらな、必ず道を見つけてくれるんやで」
祖父は生前によく言っていた。




