3話 信仰の果て
全身の力が抜けたように地面に崩れ落ちる。
神としての力の大半を使い果たしたからか。もちろんそれもあるが、何よりも後悔の念が私を地に落とした。
彼のことを何も考えず、自分勝手な考えだけで、大切な人の記憶を消した。
人としても、神としても、してはいけないことだ。誰にも、そんな権利はない。
一夜の瞳を思い出す。何の希望もなく、くすんだ瞳。
私は、一夜のあんな姿は望んでいない。
もっと、笑顔で、楽しそうな姿を望んでいた。それも、私によって、だ。
だから、風花の記憶を消したんだと、今になって思う。
心の何処かで期待していた。きっと、今の一夜にも、私は必要な存在なんだって。
本当に、愚かだ。ここまで都合のいい展開を思い描いていたなんて。
結局、神様らしいことなんて、何一つしてあげられなかった。
彼が初めて神社に来た時から、今に至るまで。
もしかしたら、神社に来る時間すら、無駄だったかもしれない。そう考えるだけで、胸が張り裂けそうだ。
でも、自業自得。
神様なんて、私には相応しくなかったんだ。
彼の邪魔しかしていない。こんな、出来損ないの神様。今や、信者の一人もいない、一人の人間を信仰する私に。
震えたため息が漏れる。
私の中から、神様という肩書きだけが剥がれ落ちていった。
それでも、頭に残るのは一夜。
彼のことだった。
それもまた、なんと愚かだろうか……私を信仰してくれていた頃の、一夜の姿。
せめて、最後くらいは彼の望むことを。
彼が、今の一夜が望んでいるのは……ほかの誰でもない風花。
悔しいな、虚しいな。
これが私だったら、どれだけ良かったのだろう。
私は立ち上がると、残りカスのような信仰心を使う準備をする。
記憶を元に戻す力は、もう残されていない。
消された記憶の対象を、変えるだけだ。
誰に変更するか。
どうしても、ここで悩んでしまった。
親、兄妹、親戚、友達。どれも、今の一夜には必要。
そう、今の彼に必要のない人物。ここにいるじゃないか。
知っている。だから、知りたくなかった。思わず、大粒の涙がこぼれ落ちる。
確かめたいから、ここまでやってきた。なのに、知ってしまった。
今にも、吐き出してしまいそうだ。
最後に見た彼の姿が、あの姿だ。しかも、よりにもよって自分の手で、あの姿にしてしまった。
後悔してもしきれない。もう、取り返しがつかない。
それでも、やるしかない。
たった、一人信者だった人のために。
たった、一人の神様のために。
私は……記憶を消した対象を、変更した。




