第十一章 Board of Peace の衝撃
1月21日、午後。
A市の空は淡い夕暮れに染まり、雪が静かに降り続いていた。
匠は役所からの帰り道、スマホに届いたニュース速報を見つめていた。
**「ダボス会議でトランプ大統領が『Board of Peace』構想を提唱」**
**「日本にも参加を要請」**
**「外務省、招待状の受領を認める」**
匠は足を止めた。
雪の音が吸い込まれ、世界が一瞬だけ静止したように感じられた。
――既存秩序の外側に、新しい枠組みが作られようとしている。
その直感が、匠の胸に重く沈んだ。
◆ Board of Peace:新しい“秩序”の影
家に戻り、ストーブに火を入れた匠は、
ニュースの詳細を確認しながら静かに分析を始めた。
トランプ大統領は演説の中で、
**「世界は平和だけを考える義務はない」**
と述べ、
Board of Peace を“現実的な安全保障の枠組み”として提示した。
さらに、
**「日本は重要なパートナーだ」**
と名指しで参加を促した。
外務省は招待状の受領を認め、
木原官房長官は「精査中」と述べている。
匠は静かに呟いた。
「……日本がどこに立つかで、インド太平洋の構造が変わる」
政治的評価ではない。
ただ、構造としての“重さ”を読み取っただけだった。
次に目に入ったのは、ロシアに関する報道だった。
**「トランプ大統領『プーチン大統領は参加を受諾』」**
**「ロシア側『まだ検討中』」**
匠は眉をひそめた。
――大国間の意思疎通が乱れている。
これは第三段階モデルの重要なシグナルだ。
誤解、誤算、既成事実化が起きやすい。
さらに、中国の動向はまだ明らかではない。
だが、もし中国が参加すれば――
**米・中・ロの三極構造が生まれる。**
匠はノートに静かに書き込んだ。
**〈三極構造は、二極構造より不安定。
均衡点が複数あり、揺らぎやすい〉**
さらに、グリーンランド情勢は緊張を増していた。
**「フランス、グリーンランドに部隊派遣」**
**「ドイツ・スウェーデンも参加表明」**
**「ホワイトハウス『欧州の派遣は影響しない』」**
欧州は“領土保全”を理由に動き、
米国は“既成事実化”を進めている。
匠は静かに結論づけた。
「……国連中心の秩序と、Board of Peace のような新秩序。
二つの秩序が並列化し始めている」
これは、世界が“二重構造”に向かう兆しだった。
日本では、解散総選挙を控え、
各党の非難合戦が続いていた。
SNSでは真偽不明の情報が飛び交い、
支持基盤の再編も進んでいる。
匠は静かに呟いた。
「……国内政治の不確実性は、外交の予測可能性を低下させる」
第三段階モデルの条件②・③が同時に動いていた。
午後七時。
匠はノートPCを開き、矢島とのオンライン会議に接続した。
画面に映った矢島は、深刻な表情をしていた。
「匠さん……Board of Peace の件、どう見てる?」
匠は少しだけ目を閉じ、言葉を選んだ。
「参加の是非ではなく、
“参加した場合の構造変化”を考えるべきだ」
矢島は息を呑んだ。
「つまり……?」
「既存の国連中心の秩序と、
米・中・ロが主導する新秩序が並列化する可能性がある。
日本がどちらに軸足を置くかで、
インド太平洋の安全保障環境が変わる」
矢島は画面越しに匠を見つめた。
「……第三段階に入ったのか?」
匠は静かに首を振った。
「まだだ。
だが、第三段階の“接触”は確かに始まった」
会議が終わると、匠は窓の外を見つめた。
雪が静かに降り続いている。
街は、世界の激動とは無縁のように見える。
しかし、匠の胸の中には、
世界の“新しい輪郭”が静かに浮かび上がっていた。
――臨界点はまだ先だ。
――だが、世界は確かに変わり始めている。
一方で、23日には通常国会冒頭での衆議院解散。
27日の公示を経て2月8日の投開票と国内情勢は大きな変動を迎える。
我がA市も、市職員が一致団結し超最短選挙へ準備に取りかかる予定だ。
――国内もまた大きな転換点を迎えつつある
――その先にある風景とは第三段階と言えるものになるのか




