6話 メスィの使い
俺とレオナは憤怒の魔獣とやらの様子を見に、あわよくば手なずけて仲間にするべく、再び監獄とやらへと向かった。
監獄の入口は祠のような場所で、すぐ近くに石畳の階段がある。
石畳の階段を下りる、その手前でレオナは俺に忠告してきた。
「良いですか、雪村さん。監獄にはハイラー王国の聖騎士がいます。もし王国の聖騎士に会ったら、逃げてくださいね」
「ああ、そうさせてもらうよ。なんせ俺は王国ではどうやら指名手配になっているからな」
そう、俺は以前この監獄から脱獄したというわけで、すぐ王国から指名手配になったということだ。
という俺がよくよく考えれば、なんでまた監獄にいるのやら……。まあ、レオナに一緒に来てほしいと押し切られてしまい、しぶしぶついてきたというわけだ。
俺は王国の人間に素性がバレるわけにはいかないから、フードと、あと仮面をつけている。
フードと仮面は屋敷から出発する前にレオナに渡されたものだ。
レオナは俺に仮面を渡すときに『絶対に外さないでくださいね』と俺に忠告してきた。
この仮面は『メスィの仮面』と云われるものらしい。仮面には女性みたいな、能面みたいな顔が浮かび上がっている。なんでもこの仮面さえ付ければ素性が絶対にバレないという優れものらしい。内なるオーラ的なものも封じ込めるとかなんとかって言っていたけど、詳しくは聞いていない。
今、この仮面をつけてレオナと会話できているが、レオナと一度離れてしまうと、仮面付けた状態で再会しても俺だとか認識されないみたいだから、ある意味危険な代物だということだ。
「雪村さん、私から絶対に離れないでくださいね。もしはぐれてしまった場合、認識阻害が発動します。そうなってしまったら、私はあなたのことを見つけることができませんので、気を付けてくださいね」
「ああ、それも気をつけるよ」
「それなら監獄へと入りましょうか」
俺とレオナは監獄へと入るのだった。
監獄は何やら植物の残骸で散りばめられていた。
「これは一体……」
レオナは何か見つけたようだった。
「これは薔薇ですね」
レオナの手元には薔薇があった。その薔薇を俺の方に渡してきた。
「前、ここから脱出した時はそんな薔薇なんてなかったよな。やっぱり薔薇の魔王の仕業か」
「ええ。それにこの植物の残骸は、荊、ですね。雪村さん、その荊には触らないほうがいいです。荊から微かに魔力を感じます。恐らく荊には神経毒が仕込まれています。触れると一時的に動けなくなります」
「動けなくなるってマジか……。なら、気をつけながらこの先進むしかなさそうだな。薔薇の魔王に遭遇したら多分、無事じゃすまないだろうし」
「もしも魔王に遭遇したら、何も考えずに逃げましょう」
「ああ。そうしよう」
俺たちは荊を避けつつ、監獄の奥へと進んでいき、鉄格子の扉にたどり着く。
「ここは一体……」
「雪村さん。何か、感じます」
レオナが忠告するのと同時に、大岩が押し寄せてきた。
俺は右側壁に、レオナは左側壁に分かれて分散し、その大岩を避けることができた。
俺は壁際から鉄格子の扉の様子を見ながら、レオナに話しかける。
「なんだ今の大岩。てか、レオナ、ありがとうな」
「ええ。でも油断しないでください。恐らくあの大岩は何者かの仕業です」
「あんな大岩、一体誰が」
鉄格子の扉が豪快に開く音がした。
そこから巨体のゴーレムが足音を鳴らしながら出てきた。
「侵入者、侵入者……」
ゴーレムは小石並みサイズのものを周囲に投げつけていく。
壁から顔を出したら多分当たるな、これ。
「ゴーレムですか。なんであんな魔物まで」
「なんかこの監獄、ドラゴンだの、魔物だの出てきておかしくねーか?」
「ええ。まるで魔物の巣窟。これも王が何か企んでいたのでしょうか」
ゴーレムは何やら大岩を生成しているようだ。
その間、ゴーレムが攻撃しないと見たレオナが反撃を仕掛ける。
ゴーレムの方に近づき、閃光を放つ。
「し、侵入者、排除、せよ」
ゴーレムの拳がレオナに命中する。
そのままレオナは後方へと飛ばされ、崖へと落ちていく。
レオナは崖で何とか落ちないように必死に端を掴んでいた。
「レオナ!」
俺は叫びつつ、レオナの元へ駆け寄った。
「雪村さん。もう、ダメかもです……」
「レオナ。俺が今助ける」
俺はレオナの手を掴んだ。
だが、一人分の体重を持ち上げることはできず、落ちないように掴むくらいがやっとだった。
「雪村さん。放してください。私は大丈夫です」
「離すものか!」
「いや、放してください! 私は大丈夫です。それよりも後ろにゴーレムが……」
「え?」
俺とレオナはゴーレムの攻撃を食らい、崖から落ちた。
*
崖から落ちた俺はしばらく気絶していたらしい。
「君、大丈夫か?」
青年に呼び起され俺は目を覚ました。
辺りを見渡すに監獄内のどこかの部屋へとつながっていたらしい。
俺は助けてくれたであろう青年に声をかけようと振り向くと、
「お、お前は……」
俺は驚愕した。
目の前にいる青年は王の謁見の間で会った聖騎士、それも俺を以前気絶まで追い込んだ青年だったからだ。
「ああ、私か。私はハイラー王国聖騎士長スレン・ユグドラだ。君、本当に大丈夫?」
こいつ、聖騎士長かよ。まあ、ただの優男かと思ったが、聖騎士長ということはそれなりに実力者ということだな。まあともかく助けてくれたことだしお礼はしておくか。
「あ、ありがとう」
俺は渋々、お礼を言った。
というかなんでこいつが監獄にいるのか? それよりもこいつは王国の人間だから流石にバレるわけにはいかないよな。
「良かった! どうやら大丈夫そうで。君、さっき、上から落ちてきたんだよ」
「天井……」
俺はスレンに指図で促されるように上を見た。
さっきの俺たちが落ちた崖だ。
それよりもレオナはどこなんだ。
「なあお前、金髪の女の子見なかったか?」
「えっと、すまない。見ていない」
スレンがレオナを見ていないということは、崖に落ちた後、どこか別の場所に着地したのかもしれない。しかし今、レオナとはぐれてしまったことはまずいな。レオナと再会しても仮面をつけている状態の俺だと認識しないかもしれないな。そもそもレオナにしか『メスィの仮面』外せないって言っていた訳だし。
「そうか、見ていないのか。じゃあ、俺はその女の子探しにいくよ。助けてくれてありがとうな!」
俺は礼を言って、スレンの前から去ろうとすると、
「君、ここを一人でうろつくのは危ないよ。私が案内するよ」
「いや、良いって」
「まあ、そう言わずに。ところで君のことは何と呼ぶといいかな」
「いや、まあ……」
本名をスレンに伝えるのは流石にまずいな。本名伝えたら多分、指名手配だって言われて、俺はまた監獄行きだからな。
「えっと、その……」
俺はしばらく考えている間に、レオナとの屋敷での会話を思い出す。
『雪村さん。もし万が一王国の何者かに見つかってしまったらこう言ってください。メスィの使いの者と』
メスィの使いのものというものがどういうものかよくわからないが、俺はスレンに告げた。
「俺はメスィの使いの者、とでもいってくれ」
「メスィ……。ああ、あの有名な蒐集家の関係者か。ならば分かった。メスィの使いの者よ。しばらくの間だけど案内するよ」
俺とスレンはレオナを探すために監獄内を探索することになった。




