2話 愚王とドラゴンのいる監獄
高校生になって周りの人間と俺自身に少し隔たりを感じてしまった。
多分、周りの環境に適応できずに俺自身はズレてしまっていたのだろう。
そんなこんなで俺こと、雪村継はそんなずれた社会、学校に毎日通っていた。
学校のテストではわざと平均点くらいの点数を取って、体育では平均値の運動神経でやり過ごしてきた。どれも俺自身が目立たずに、この退屈な学校生活を楽しむためだった。
そんなある日のことだった。それは唐突に起きたのだ。
俺が一人帰り道を歩いていると、道路に飛び出す何者かを発見してしまったのだ。
最初こそは見て見ぬふりをかましていこうとしていた。俺には関係ないと思いながら、帰ろうとした。
だが、俺の足がなぜか勝手に動き出したのだ。
そうか、これは俺が望んでいたことなのか。
俺は急に走り出して、道路に飛び出す何者かを押した。
その瞬間、俺は全身に痛みを生じた。
ああ、俺は車に轢かれたのか。
そのことに気づいたときにはすでに遅く、俺の身体がどんどん重たくなっていき、硬くなっていき、冷たくなっていく。
ああ、これが死ぬってことなんだろうな。
俺はもうじき死ぬ。だけど最後に何かを救うことができたことは、俺の何にもない人生の中で一番良かったことなのかもしれない。
俺は最後の力を振り絞って、助けた何者かの姿を見ることにした。
うっすらと見える目線の先には、金髪の女性の姿があった。
そうか、俺は人を助けたんだな。
俺はそのまま意識が遠のいていき、死んだ。
*
俺は死んだはずだった。
気づけばひんやりとした石畳の床でうつ伏せになっていたのだ。
これはどうやら助かった、といってもいいいのか? 身体は、動きそうだ。
俺はすぐに起き上がった。
すると目の前には男が複数人いた。
男たちは白いローブを着ていて、顔は覆面でおおわれていた。
そんな白装束の得体のしれない者のうち、一人が叫んだ。
「勇者が降臨なさったぞ!」
その声を聞き、他の者も何やら騒ぎ立てていた。
「勇者様、今すぐ王との謁見を求めますがよろしいですか」
「断る」
「え、どういうことですか?」
俺が提案を断ったことにより、白装束は少し動揺を見せていた。
「そもそもお前らは誰だ」
「私らはこの王国の魔術部隊ですぞ」
「そうか。自己紹介ありがとう。俺は、継だ。あと勇者ではない」
「いいえ。あなたは異世界から召喚なさったので、勇者で間違いありません」
「ふーん。そうか」
この世界はどうやら異世界から来た人たちは皆、勇者ということらしい。
まあ、仕方ないし、話を合わせることにしよう。
「分かった。今からその、お前らが言う王様に合わせてくれ」
「分かりましたすぐに、ご案内いたしましょう」
俺は白装束たちに連れられながら、王のいる宮殿へと赴いた。
途中、白装束たちにこの王国について色々と聞かされた。
今、俺がいる王国はハイラー王国。この王国を治める王の名は、ルイ・ハイラーという60歳を超えた初老の男だと。その王は今、薔薇の魔王フロレア―ルを討伐すべく、傭兵雇ったり、俺みたいな異世界人を召喚させて、勇者に仕立てて討伐に行かせているらしいのだと。
「以上がこの王国についてです」
「ああ。説明ありがとう」
俺は白装束たちに感謝を述べた。
すると白装束の一人が俺に聞いてきた。
「ところで勇者様は何かスキルを身につけているとのことらしいのですが。あなたはどのようなスキルをお持ちで?」
「スキル? ああ。この世界にはそういうものがあるのか?」
「分からないのでしたら、後で王様との謁見の際に、スキルの鑑定もして差し上げましょう」
「そうか。それは助かる」
まあ、俺もスキルについては少し気になるところもある。
この世界には魔法のほかに、スキルといってそれぞれが持つ固有の力があるみたいだ。
俺は一体、どういうスキルを持っているだろうか。できれば目立たないやつがいい。
自分自身のスキルについて想像を膨らませている間に、ついに王の居るとされる部屋の前にたどり着いた。
「勇者様。こちらが謁見の間です。くれぐれも粗相のないよう」
「いやー。ありがとうね。助かるよ。ってところで、君たち。魔術師だよね? なんで剣なんか腰にぶら下げているわけ?」
「ははっ。これは護身用ですよ、勇者様」
「まあ、魔法と剣とスキルがはびこる世界ですからね。はは。でも、後ろのやつらはなんで俺に剣を突き立てているわけですかね?」
俺は少しフレンドリーに今ある状況を伝えると、白装束たちは様子が急変した。
「良いから、入れ!」
俺は白装束に蹴られながら、王の居る謁見の間へと足を運んだ。
謁見の間に入るとそこには鎧を身にまとった騎士が道の端をずらりと並んでおり、道の先には初老の王冠を被った男がいた。
これは何かのサプライズかと思いつつ見渡そうとすると、白装束のやつらから後ろを蹴られ、前に進めと脅してきた。
俺は仕方なく歩き、王の前に立った。
「お初目にかかります。私、勇者雪村です」
「何を馬鹿げたことを言っておる。この男は。ワハハハ!」
「ハハハ。王様、なんという素晴らしい御冗談を!」
「朕はお前の発言することを認めてはおらぬぞ。ええい! 言葉を慎め!」
王の一声と共に、俺は白装束たちに地面に押さえつけられていた。
王は俺を睨みつけていた。
俺も負けじと王を睨みつける。
「聞こう、勇者雪村とやらよ。なにうえ、お主は勇者を偽る?」
「白装束に言われたから」
「ほう。中々面白いことを言いよる。良いか! この世界にはもう魔王はおらぬ」
「え? 薔薇の魔王は居ないんですか?」
「そうだ。なぜなら朕が直々に始末したからな」
「なるほど。それなら勇者はいりませんな。ははは。それで、なぜ俺は地面に伏せなければならない」
「お主、少し頭が高いな。頭でも切ろうか?」
「俺の質問に答えろ。なぜ俺は地面に伏せて、拘束されている」
「それはなあ。お主が魔女の配下の疑いがあるからだ」
「は? それはどういう意味だ」
「そうだな。お主のスキルは、この水晶玉を見る限り薄暗くて、何も見えんのじゃ」
王はそう言いながら、水晶玉を見せつけてきた。
確かにその水晶玉は暗く靄がかかっていた。
「じゃから、朕は王として、お主を始末しねばならぬのじゃ。ああ、何とも哀れな者じゃ。手始めに頭でも切り落とすか」
王はそう言いながら、配下から何やら剣を渡されていた。
ヤバい、このままだと俺は殺されるのか……?
「お前さては愚王だな」
「お主、今、何と申した?」
「だからお前は愚王ってことだよ。本人に直接何も聞かずに、一個疑いの材料が見つかったからって、それを信じて、人を処刑するような愚行をする、愚かな王のことだ!」
「おい、き、貴様! 朕を愚弄する気か」
「ああ、愚弄してるさ。だからこそ俺も処刑されるまでの時間稼ぎやらせてもらうぜ!」
俺は白装束たちを押しのけた。
やっべー。人を攻撃したの初めてだから意外と痛いな。
俺はそれから王に向かって走り出し、そして頭突きをかました。
王は倒れ、頭から血を流した。それから頭を押さえつけながら、
「ええい! この犯罪者を捕らえよ!」
王が叫ぶのと同時に、一人の男が俺の目の前に現れた。
「はい。よろこんで」
俺は胴体を切り付けられた。
胴体から血が迸り、放物線を描いていた。
俺は背中から叩きつけられるように崩れ落ちた。そして意識が朦朧とする中、切り付けた男を睨みつけた。
男はどこか優しそうな笑顔を見せながら、俺に耳打ちしてきた。
「悪いね。今は辛抱してくれ」
「お、お前……」
「ふふっ」
男は俺に微笑みかけた。
その瞬間、俺は意識がㇷ゚ツリと消えた。
次に目が覚めた時には薄暗い牢獄の中だった。
*
「というわけなんですよ。レオナお嬢様」
「私をお嬢様って呼ばないで!」
「ごめんごめん」
「しかし確かにヒドイことですわね」
俺の身の上話を聞いたわけか、レオナはどこか気の毒そうに俺を見つめていた。
やめろよ。そのかわいそうなやつを見る目は……。
「それでレオナはなんで俺と協力してこの国を乗っ取りたいわけ? 俺意外にも、多分強い奴はいるぜ」
「そうね。確かに、この国の聖騎士長とかを味方に付ければそれなりに早く計画は進むと思うね。でも、何となくなの。あなたは強いんじゃないかって」
「そうか。まあ俺は王に一発頭突きをお見舞いしたが」
「いや、それはマジで他でやっても捕まるからやめてね」
「やるわけないじゃん」
「でも、私はあなたが強いんじゃないかって思うの。なんというか、まるで誰かに似ているもの。なんというか。オーラ的な?」
「それこそ俺は、本当に魔女の配下だったりして?」
「さあ?」
レオナは不思議そうに首を傾げた。
俺とレオナと一緒に今いる監獄から脱出を試みていた。
俺のいた監獄にはいくつかの脱出ルートがあるらしく、そのうちの一つを使わせてもらうことにした。
「しかしここって他に捕まっているやつなんかいないよな?」
「いませんね。ここって今はあまり使われていなかったので、多分、いないんじゃないですかね」
「ふーん。そうなん」
「あ、でも、何かドラゴンが眠っているとかの噂聞いたことあります」
「は?」
俺は首を傾げた。
「ええ。確か、炎吐く、あいつです」
「いや、説明はいいから。というか、早く言ってよん」
「すみません。脱出することに必死になってつい」
「まあ、ドラゴンいても、お前が何とかするだろ?」
「いや、その、なんというか、無理です」
「ん?え?」
俺がなぜかと聞き返すと、少女は急に焦った様子で言った。
「わ、私、血が苦手なんです」
「あ、そういうこと」
「えっと、その、昔、ちょっと嫌なことがあって、それが起因して、今では血を見るのが怖くて」
「あー。ちょっとつらい過去話はいいから、もうわかったから」
レオナにも弱点があったんだな。鉄格子を真っ二つにするくせに、こんな弱点があるとは。
「じゃあこうしよう。ドラゴンが来たら、戦わずに逃げる」
「はい。そうしましょう」
俺たちはドラゴンに対しての対処法を決めていたその矢先に。
急に今いる地面が揺れ始めた。
それはまるで何かが近づいてくるかのように。
グルルルル―—————————。
「お前、お腹空いたのか」
「いや、す、空いてませんね。雪村さんこそ、ここに来てから何も食べていませんよね」
「あ、お、お俺は、おなか、す、空いてにゃい、いよ」
あ、分かりやすく動揺してるとレオナは雪村を見て思った。
地響はなぜかどんどん大きくなっていく。
グルルルルらあああああああああああああああああああああああああああ
「「ぎゃああああああああああああああああ」」
二人はそれを見てすぐに叫んだのだった。そして走り出した。
そう、運命というものは残酷なものだ。
腹をすかせた赤い鱗のドラゴンが牙からよだれを滴りながら走り出してきたのだった。




