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久しぶりの女子会

 家族以外の人と話すのは久しぶりだから、わくわくする。

 電車の中で、ワイヤレスイヤホンで音楽を聴きながら、スマートフォンをいじれるもの嬉しい。

 何も入っていないのではないかと思うくらい鞄が軽い。凜と一緒だと、おむつやミルク、退屈しのぎのおもちゃやおしゃぶり、着替え…と大荷物になってしまうし、声が聞こえなくなってしまうので、イヤホンをすることもない。


 ふと、赤ちゃんの声が聞こえた気がして顔をあげると、少し離れたところに、ベビーカーの上で泣いている赤ちゃんがいた。お母さんが赤ちゃんを抱き上げ、あやしている。


 凛は今頃元気にしているのだろうか。

 少し心配になり、悠人に「大丈夫そう?」とLINEを送る。悠人からはすぐに「全然問題なし!楽しんでおいで」というコメントと一緒に凜が布絵本で遊ぶ動画が送られてきた。楽しそうにカシャカシャと布絵本を触る凜を見て安心した。


 駅に着いたので、電車を降り、お店へ向かう。お店に着いて店員さんに予約名を伝えると、席に案内された。


「久しぶりー!」


 すでに百合とリナは座っていて「麻美―!」と歓迎してくれた。


「妊娠の時ぶりだよね?」

「そうそう。産後全然痩せなくて、デブすぎて辛い」

「そんなことないじゃん!相変わらず細いし、大学の時から全然変わらないよ」


 3人できゃっきゃきゃっきゃと話していると「遅れてごめん!」と5分遅れで優子が部屋に入ってきた。


「優子!」

「久しぶり!」

「おかえり」


 タイに住む優子は少し日に焼けていて、外国に住む日本人っぽくなっていた。外国に住む日本人の子は、ファッションとかメイクとかが若干日本に住む子とは違うので、すぐわかる。


「これお土産」


 みんなはお土産を「ありがとう」と言って受け取った。


「優子、今回はどのくらい日本にいるの?」

「来週の火曜日までいるよ。お姉ちゃんの結婚式が明日あってさ、それに合わせて休みとって帰国したの」


 百合が「何飲む?決まったら、そのまま注文しちゃって」とタブレットを優子に渡した。


「リナ、今日は仕事大丈夫だったの?」


 広告会社に勤めるリナは残業も多く、休日出勤もしょっちゅうしていて、いつも忙しそうだ。


「昨日、終電までやってなんとか片付けてきたよ」

「大変だね。休みとかちゃんと取れているの?」

「再来週コンペがあって、それが終わればどかんと休み取ろうかなと思っているよ。実は今度イベントをやることになって…」


 リナは淀みなく仕事の話をする。大変な仕事のはずなのに、リナは楽しそうで生き生きとしていて、すごい。


「優子は、相変わらずあちこち飛び回っているよね。インスタで見たよ」


 リナは優子に尋ねた。


「うん!仕事でもプライベートでもあちこち行っているよ。買い物しすぎて、貯金できなくてやばいよ」


 優子はクロエのバックからiPhoneを取り出すと「こないだニューヨーク行ってきて、よかったよ」と写真を見せてくれた。


「失礼します」


 店員さんが入ってきて、ランチセットのサラダとスープを置く。優子は「わーおいしそう」と言って、iPhoneで写真を撮った。


「百合は彼氏とうまくいっているの?」

「…実は、今度、向こうのご両親にご挨拶することになっているの」

「え、結婚?」


 百合は「うん」と幸せそうに微笑んだ。


「おめでとう!」

「百合もついにだね」

「お式はいつするの?」

「式場とかまだ決まっていなくて…決まったら、みんな招待するから来てね」

「絶対行く!」

「百合の花嫁姿絶対きれいだよね」


 そのままお互いの仕事のこと、プライベートのこと、恋愛事情などを話す。

 凜のことが気になってしまう。今頃、お昼寝しているのだろうか。私がいなくて寂しがっていないだろうか。


 私は仕事をしていないので、他の子の仕事の話を聞いてもどこか遠い世界の話のようで現実味がない。それよりももっと、育児のことや凜のことを話したかった。少しだけ、私も育児の話をしてみたが「大変だね」と聞き流されてしまい、それ以上話せなくなってしまった。仕方がない。子供がいない、ましてや結婚もしていない3人には、育児のことなどわかってもらえるはずがない。


 少し前まで、スタバで新作のフラペチーノ片手にいくらでも話すことができた。手のひらの中の氷が溶けて、ただの液体となるくらいの間、夢中で話していられた。

 以前、4人で銀座の少しお高めの喫茶店に行ったときなんて、話が盛り上がりすぎて、店員さんに「少し声のトーンを下げていただけますか」と言われるくらい、夢中で喋っていられたのに。


 今は、どこか盛り上がりに欠けて、文化祭後の後片付けをしている教室のようだ。ライフステージが違うと、こんなにも分かり合えないのか。それぞれの立っている場所が違いすぎて、もう、かつてのように手放しに喋ることはできないのだ。


「また会おうね」


 2時間ほどで別れた。次はカフェ行く?と誰も言い出さなかったことがすべての答えのような気がした。


 早く家に帰りたい。悠人と凜の待つ家に。凜のふわふわの髪の毛を撫で、柔らかな身体を抱きしめたい。

 逸る気持ちを抑えながら、小走りで駅へ向かった。



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