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二人目がほしい

 日々は目まぐるしく過ぎ、気が付けばコートを着る季節がやってきた。悠人と凜と私の三人で過ごす2回目の冬は、去年よりも暖かくて、世間では暖冬だコートの売れ行きが悪いと騒がれている。年々夏が長く冬が短く暖かくなっていっている気がする。このままだと、凛が大人になる頃には、冬がなくなってしまうかもしれない。


 凜はだいぶ上手にトコトコと歩くようになり、家の中で動き回り目を離すことができない。なんか静かだなと思うと、ティッシュをひたすら出しているなんてことがザラなので油断できない。凜の手の届かない場所へ、触られたくないものを上に上にと置くようにしているが、スペースにも限りがあり難しい。ダイニングテーブルは中心部分しか使えない。使い終わったものはすぐに棚の中や冷蔵庫の中へしまうようになって、家の中が以前よりも片付いている。凜に触ってほしくない大人が使用するものが視界から消える一方で、凛のおもちゃや洋服は日に日に増えて、家の中すべてが凜の色に染まっていく。


 凜は、夜8時に寝て朝七時に起きるという規則正しい生活をしてくれる代わりに、お昼寝は一時間くらいしかしてくれない。少しでも運動させて昼寝をしてもらおうと、朝食後に少し前に買ったファーストシューズを履かせて公園で散歩するのが日課だ。


 インスタグラムは細々と続けているものの、凛の一歳の誕生日が終わってから、私の中で何かが終わってしまったような感覚がある。

 インスタグラムの投稿に身が入らない。そもそも凜から目が離せないので、あまり長くスマートフォンを触る時間が確保できない。

 幸いなことに、ハロウィンが終わると世間はクリスマスモードで、写真のネタには困らなかった。横浜あたりに行ってクリスマスの飾りと一緒の写真を撮れば、なんとなくインスタグラムっぽい映える写真が撮れる。それっぽい写真を投稿してお茶を濁している。

悠人が一人でお出かけしてきたら?と言ってくれたので、好意に甘えて一人で川崎に遊びにきた。少し買い物をして、休憩がてらカフェに入った。一人でお茶をするのも久しぶりで、こんな些細なことがとても嬉しく特別に思える。

 カフェラテを飲んで、ぼぉっと窓越しに見える景色や行き交う人々を眺める。世間では師走に入り、皆いつもより少し歩調が速く忙しそうだ。少し前まで、私もあちら側の社会の一員だったのに、今はどこか他人事で遠い。主婦というのは、社会の一員のようで、どこにも何にも繋がっていない糸の切れた凧のようなものだ。

 手持ち無沙汰だったので、インスタグラムを開いた。みんなのインスタグラムをチェックする。

 芽衣ちゃん家族はシンガポールでの生活を満喫しているようで、楽しそうな暮らしぶりが写真から伝わってきた。等間隔にゴミ箱が設置された街並みや見慣れない食べ物のパネルが並ぶフードコート、ヤシの木やブーゲンビリアで彩られた道など、ふとした写真の片隅に非日常を味わえて、見ているのも楽しい。同じように感じる人はいるようで、シンガポールに移住してから、芽衣ちゃんのアカウントはじわじわとフォロワーを増やしている。

 咲良ちゃんは、ベビーモデルとして活動を始めたようで、撮影の時の写真をたくさんアップしていた。子供服のカタログモデルをする様子が道に入っている。合間に、ママも登場していて、美人親子として地位が確立している。他のママ友も登場していて、咲良ちゃんママの交友関係の広さが窺い知れる。

 笑茉ちゃんは、ショートホームステイと称して、親子でハワイに滞在しているようだ。青い海をバックにした写真をたくさんアップしていて、中にはママと一緒に水着姿で写る写真もある。海外のホテルに一か月ほど滞在することが、赤ちゃんの知育にどんな影響を与えるのか私にはわからないし、効果のほどは不明だが、本人が望んでやっていて満足しているのだから、これでいいのだろう。

 結菜ちゃんは、非公開アカウントになってから更新の頻度が減った。結菜ちゃんとママの顔もあまり出さない方針に変えたようで、結菜ちゃんはどんな生活をしているのか見えてこない。少し前にメッセージのやり取りをしたときは、ベビースイミングや小学校受験のためのお教室見学に行っていて、日々忙しい様子だった。

 せめて二人目ができれば、少しは私の生活も変わるのだろうか。


***


「…今日は付けないでしようよ」


 コンドームをつけようとする悠人に言った。


「…凜に弟か妹作ってあげたいし」


 悠人にも意図が伝わったのか、わかったと言って、そのまま私の中に挿入してきた。悠人が動く振動を受け止めながら、早く果ててしまってほしいと待つ。

 今子供ができたら、ちょうど凜と二歳差だな。男の子だろうか女の子だろうか。姉妹になったら華やかで楽しそうだし、男の子も育ててみたいし、どちらでもいいな。お揃いの服を着せて写真を撮るのもいいな。二歳差だったら、受験も被らないし、進学も被らないし、金銭的にも大きな負担にはならないだろうな。

 時間を過ぎるのを待つ間、冷静な私は計算する。

程なくして、悠人は果てた。


「シャワー浴びてくるね」


 余韻もなく、私はお風呂場へ向かう。凜が起きたときにすぐに相手をできるように、清潔にしておきたい。

 何か今の生活を変えるきっかけがほしい。そんな理由で子供を欲しがるなんて、と後ろ指を差されようがどうでもよい。


***


 お正月は、お互いの実家に行った。

 兵庫へ帰省した時に、同じように子持ちの子なら話が合うかも、と思って地元の友人とお昼を食べに行った。私は行ったことを後悔した。恐ろしく会話が続かないのだ。二人の友人は、それぞれ主婦とパートをしていて、旦那さんはそれぞれ消防士と親戚の経営する会社で働いている。話すことと言えば、ご近所の噂話や芸能人のゴシップばかり。ミニバンの後列にベビーカーを取り付けて、週末は家族でイオンに繰り出し、連休は大阪のUSJに行くのだと言う。笑茉ちゃんママや結菜ちゃんママみたいに、子供に教育なんてもちろんしていない。自分たちの現状に危機感を抱くこともなく、今の生活に満足しているようで向上心の欠片もない。ただ漫然と日々を過ごしているだけのつまらない人生。私なら、絶対に耐えられない。

 実家への帰省も大した気分転換にならないまま、私は家に帰り、元の日常へと戻っていった。



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