表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

エピローグ


 湿気を含んだ夏の陽光の降り注ぐ田畑に、麦わら帽子姿の美青年。


 トマトにきゅうり、ナスにししとう。


 今日もカゴは満杯だ。


 一年前、私たちは田舎に畑と一軒家を買った。


 いきなり田舎で暮らすのは、なかなかご近所付き合いが大変と聞くが、今や慎二はここら一帯の人気者だ。


 畑の知識が豊富だし、若いので力仕事も出来る。この辺りはお年寄りが多く高齢化が進んでいて、私たちが引っ越した時は意外にも大歓迎された。手伝いを頼まれることもしょっちゅうだ。


 慎二はそういうことに嫌な顔一つせず、精一杯手伝う。そんなところを気に入られて、私たちはお百姓さんたちに受け入れられている。


 一軒家は、元々建っていたものを大幅にリフォームした。前に住んでいた家を売ったお金でお釣りがきたので、家は私名義だ。

 

 そして私たちは、家と畑を買った直後に籍を入れた。婚姻届の証人は町長さん夫妻にお願いした。


 農協にも加入して、畑で採れた野菜はそこで売りに出す。

 慎二は近々ビニールハウスで果物の栽培も始めたいと意気込んでいる。


 私はというと、画家の仕事はもちろん続けているのだが、作風を少し替え、田園風景を主に描くようになった。そこに慎二の姿を足して。


 失くしていた私の人生のパズルのピースは、慎二という人間によって埋められたように――――。


 担当がアトリエに来た時に、置いてあった慎二との出会いの絵を見て、『これは売りに出すべき』と言った。私はその絵を売りに出すつもりはなかったから、代わりに田園風景に佇む慎二を描いたら、それが一部のファンに受け、注文が入ったのがきっかけだ。


 そんな感じで、私たちは新しい生活を充実させている。


 天涯孤独だった私は、家族というものを持つことが出来た。


 これから先何があっても、私は慎二を守るだろう。慎二は私の人生を照らす光だから。


「操さん、見て」


 大きくて不格好なきゅうりを片手に、慎二が嬉しそうに走って来る。


「この子俺みたいで、なんか親近感湧く」

「そう? 慎二はもっと綺麗だと思うけど」

「そんなことないよ。俺みたいだから、操さんが食べて」

「え?」

「いつもみたいに」


 ……。


 慎二は最近少し大胆になった。


 出会った頃は自信がない感じだったけど、畑を始めてから生き生きとして、堂々と話すようになった。


 慎二にとって、畑は大切なものだったのだ。


 慎二の大切なものと、私の大切な慎二。


 その二つが揃って一つの作品になる。


 私は今、究極の幸福(しあわせ)を手に入れている――――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ