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第3話


 前回の失敗を生かし、今回は船の旅を申し込んだ。

 船の中にカジノや映画館、美容院などもある大型の豪華客船。

 値段も張ったが、それなりのものを得ようと思えば出費は考えない方が良いと思い切った。


 一時はあれに懲りて婚活などやめようと思ったのだが、やはり時間が経つと再挑戦したい気持ちがムクリと湧き出てきたのだ。


 とはいえ前回とは違い、婚活目的でない一般の船旅なので、独り身の男性が乗っているかは不明なのだが……。


 予約されていた作品を描き上げた頃に、いよいよ船旅の日程が訪れた。


 最寄りの港から出発し、少し離れた観光地を三箇所ほど回り、元の港へ戻る四泊五日の旅。


 まあまあ広めのスイートを取り、夜のパーティ用のドレスも新調した。

 

 ――――にも関わらず、結果は散々なものだった。


 まず独身男性の数が少なく、声をかけてくるのは外国人ばかり。

 日本に住んでいるらしいカタコトのイタリア人の男性は、都心のイタリアンバーで働いているらしく、恋人を探しに乗船したという。

 申し訳ないがなんだかノリが軽く、とても真面目に結婚を考えているタイプではないと判断し、速やかに離れた。

 私は別にその場を楽しむための相手を探しているわけではないのだ。


 船の中のバーで話しかけてきた男性はインド人だった。

 会社の経営者らしくパワフルで早口で、エネルギーに溢れている感じがした。が、話が尽くかみ合わずそれ以来になった。


 前回のような婚活イベントではないので、自然な出会いを期待していたが甘かった。


 むしろ自分は結婚には無縁の人間であるという現実を突きつけられたような気がしたくらいだ。


 船旅から帰ってしばらくは、婚活のことなど考えたくもないと仕事に没頭する日々を送った。


(どこかに見目麗しくて家事が出来て金に飢えてる男子落ちてないかなぁ?)


 スーパーの帰り道。マイバッグを片手に下げ、仕事で疲れた顔にかかる乱れた前髪を空いた手でかき上げながら、呆然と曇天を見上げながら歩く。


 今にもこぼれ落ちそうな大量の雨を抱えているのだろう重たい灰色の雲の表情が、『そんなもんいるわけないやろ』とでも言いたげに見える。

 相当な被害妄想。


 そして目の前を黒猫が横切る。


 なんだか不吉……と思いながらも、黒猫を目で追う。まだ小さい子猫のように見えたから。歩道から路地裏に入った小さな黒猫は、ゴミ箱の残飯でも漁るのだろうか。


 何となく暗い路地裏で動く影を見ていて、ギョッとした。


 子猫の向かう先に、人間がいたから。


(え、 ホームレス!?)


 にしては何となく若そうに見える。髪の毛はそこまで伸びていないし、髭もなさそうだ。長い脚を地面に伸ばして、コンクリートの白い壁にもたれかかって座っている。

 路地裏には蓋付きのゴミ箱があり、その横にいくつかのゴミ袋が積まれ異臭を放っている。


(こんなとこで何してるんだろう) 


 チッチッと舌を鳴らして、子猫を手であやしている場違いなその男を見つめていると、男がふと顔を上げ、こちらに向かって微笑した。

 

 その顔を見て、私はある決断をしたのだった。




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