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第1話

 「女性向けマンガ原作」コンテスト 〜23時にひとりで読みたい大人女性のための作品を大募集!〜 に応募中の作品です。


 東〇藝大卒、親なし、きょうだいなし。


 類稀なる才能で美術ファンを虜にする売れっ子画家、神月(こうづき) (みさお)とは私のことだ。


 実物と見紛うほどのリアルで完璧な絵の一部分を意図的に摘出した不完全という作風。

 まるで自分の人生の大切な一ピースをなくしてしまったかのように。


 絵の具で汚れたアトリエの作業台を、アルコールを使って丁寧に拭く。

 拭いても取れない汚れは、“男の勲章”の傷痕のようなものだと思うようにする。



 中古の一軒家を改築して広く作ったこのアトリエ。

 窓からは同じような作りの家とマンションしか見えない。


 でもなかなかに満足している。


 この辺りは近所付き合いもさほどしなくて良いし、スーパーも薬局も、風邪を引いた時にかかる耳鼻科も近くにある。


 駅は少し遠いが、車があれば支障ない。


 電車などというものはあまり使わない。


 雑然とした車内でわざわざ赤の他人と顔を突き合わせて長い間揺られ続けるより、一人で好きな音楽をかけながら、鼻歌を歌って出かける方が百倍楽しいから。


 作業後のアトリエを掃除し終えて、扉を出る。

 本当は作品は昨日完成したのだけど、なんだか掃除する気が起きずに寝てしまって、今朝からせっせと片付けをしていたのだ。


 昼食はスーパーで昨夜安売りしていた惣菜祭りだ。

 チンジャオロースに、三種のおにぎり、カルボナーラ。

 売れ残りばかりを寄せ集めた折衷料理。


 それでも、自炊する面倒を考えるとご馳走だ。

 別にお金に困っているわけじゃないから安売りでなくても一向に構わないのだが、たまたまスーパーに立ち寄った時間が割引シールを貼られた直後だったから、こういったメニューになった。




 昨日描き終えた作品は、すでに買い手がついている。

 ここ一ヶ月ほどは作業に没頭していたが、少しの間休息を取るつもりだ。

 次もその次もまだまだ予約が入っているので、知らんふりして休日を強制取得する他ない。


 惣菜をレンチンして、ぬるくなったカルボナーラを口に入れる。熱々は好きじゃないから、いつもぬるくする程度に温める。

 安っぽいクリーミィな油の味が口内に広がる。高級イタリアンのキャビア乗せクリームパスタも好きだが、これはこれでいける。


 子どもの頃に両親が亡くなった後、私を引き取ってくれた祖母は料理下手だった。だからスーパーの惣菜は、子どもの頃を思い出す懐かしい味、というわけだ。


 藝大に受かった後、たった一人の肉親である祖母が亡くなった。それからはずっと一人で、芸術のためだけに生きてきた。


 現在三十五歳となった私は、立派に食っていける芸術家へと成長した。大学の同期たちもそれなりに活躍していて、横の繋がりもある。


 何不自由ない幸せな人生。


 幸せ?


 幸せって、こういうこと?


 得意なことでお金を稼いで、好きな所へ行き、好きなものを食べる。


 文句無しの有意義な生活。


 たまたま付けたテレビのワイドショーで、珍しくこんな特集をしていた。


『家族連れで行く春休みレジャー特集』


 まるで芸能人の不倫や政治家の汚職事件のニュースの間に挟まったダイアモンドみたいに。


 いつもならこうは思わなかったかもしれないが、何故か今の私にはそれがとても魅力的に映った。


 どこかでパチリという音が聞こえた気がした。


 私は思い立った。


「よし。婚活しよう」




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