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第六話 吐き出された世界。

 龍神は帰ってしまった。


 でも龍神信者は満ち足りた気分だった。龍神の姿を再び目にする事が出来たし、少しだったが言葉も交わすことが出来たからだった。


 足元に置いてあったランプを持って階段を上がる。先程まで奇麗な雰囲気を持っていた赤い宝石は今はくすんでしまっていた。なるほど、エネルギーが無くなるとこうなるのか……と龍神信者は少し興味深く思った。


 階段の入り口のそばに待機させていたネイドと共に出口に向かう。龍神信者は案外記憶力が良く、迷路のような遺跡の構造を凡そ覚えてしまっていた。記憶力が良いと気が付いたのは解析を始めた時だった。その時は自分にも意外な才能があったものだ、と思っていたが、今思い返してみると、世界が滅亡する前にも人の特徴などをよく覚えていたような気もする。


 きっと再び龍神を召喚しても、また同じようにあしらわれてしまうだろう。それにどうやら龍神は龍神信者の事を苦手だと思っていることも気が付いた。心做こころなしか、龍神信者は憂鬱げである。


 さて、これからどうしようかと俯きながら遺跡の出口をくぐる。暫く遺跡から出ていなかったから時間感覚が無くなりかけていた。久々に太陽の光を浴び、龍神信者は顔を上げた。


 じつに青く澄み渡っていた空だった。滅亡前でもなかなか見ない、絵の具を溶かした様な空だった。だが、龍神信者はそんなもの目にいれていなかった。何故ならば、それよりも衝撃的なものが視界に写っていたからだった。


 今までは、遺跡の外にでても見える景色は殺風景な荒野のような景色だった。それが今はどうだ、あちらこちらに彩りのある建物が見えるし、人の姿もそこにあった。人々は皆、驚いたような形相をしていた。


 龍神信者は気がついていなかったと言うべきか、分からなかったというべきか。遺跡にあった呪紋の内、召喚対象が現れる円形の呪紋には所々読めない部分があったと思うが、あれというのは、実は召喚対象が召喚者の願いを叶えられなかった場合、召喚に要した物と同等の価値のものを己の財産から差し出さなければならないという、そういうルールが書かれていたのだ。


 そしてこれもまた龍神信者の知る事では無かったが、龍神というのは意志を持った世界のようなもので、彼が食べた物は彼の中に留まる。同時に、それが彼の財産となる。よって、彼は龍神信者の願いを叶えられなかった代償として食べたこの世界を吐き戻したのだ。


 この呪文は今では禁忌とされているため、かなり呪文に対し緩い龍神信者の教会でもそれに関する文献は置いていなかったのだ。


 龍神信者がそれらの事を知らなくても、龍神を召喚したことが世界復活を招いてしまったことなど、それこそ馬や鹿でも分かるだろう。気が付いた瞬間、龍神信者は激しい後悔と、いや、龍神と再び逢う事が出来たのだ、これ以上の喜びはないだろうと、他にも様々な彩りの感情がせめぎ合っていた。


 感情を処理しきれず、龍神信者は遺跡の前で突っ立っていた。その時初めて、空が綺麗だということに気が付いた。

Q,龍神食事する必要無くないか?

A,無いです。でも、好きな物は手元に置いておきたいじゃない。

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