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第五話 龍神召喚。

 その日、龍神信者の鼓動は早鐘を打っていた。体が火照るのも感じていた。


 世界が滅んでからすでに一年弱が経過していた。といっても殆どが移動だったが。


 呪紋は石に書けるような筆記用具を持ち合わせていなかったため、仕方なく指を噛み切りその血で書くことにした。


 呪紋に問題はなさそうか、龍神信者は今一度確認する。見た感じは、なんの問題も無さそうだ。召喚する対象が現れる部分の呪紋によく分からない部分があるのが少し不安だが、まあ大丈夫だろう。


(ホントにか……?)


 ……まあ、不安なものほ不安である。しかし龍神信者も龍神信者でここまで来たというのに、今更やめるというのも気が引ける。やはり腐っても彼は人間なのだろう。


 龍神信者の手には呪文文字で龍神の事が書かれているタイルがある。これをはめれば、龍神が召喚されるのだろう。彼が龍神を目にしたのは世界が滅亡したあの日だけだが、あの理外の存在である龍神は龍神信者の理解を越えるほど美しい姿をしていた。今でも、目を閉じたら瞼の裏にその姿がある。


 龍神信者には、正直なところ、龍神に喰われたいという願望は無かった。喰われたいと思ったのは、龍神の姿をみて初めて生まれたものだった。


 それは衝動的なものだった。だが時が経つにつれ、龍神信者の中で喰われることはこの上なく耽美なものに思えて仕方なかった。


 龍神信者は震える手でタイルを床にはめた。その瞬間、呪紋が妖しくそして激しく輝き始めた。驚き、眩しさに目を細めながら後ろを見てみると、暗くて良く見えなかった階段がうっすらと浮かび上がっていた。おそらく、上階の呪紋も光っているのだろう。


 でもそれに夢中になっている場合ではない。龍神信者には呪文の知識はあるが使うのは初めてだ。いつ龍神が現れるか分からない。胸をドキドキさせながら、跪いて待っていた。


 やがて、呪紋の輝きがより強くなり、薄らとあの日(世界滅亡の日)に見たあの姿が浮かび上がってきた。それは徐々に、しかし急速に鮮明になっていき、遂に龍神の姿がハッキリと見えた。


「……貴様か。この術で我を呼び出したのは」


 龍神の声が遺跡内に響く。声、といっても龍神はこの世界のものでは無く声帯を持たないため、直接龍神信者に語りかけていると言った方が良いだろうか。


 龍神の姿をみて惚けていた龍神信者は龍神の声で意識が戻される。……実に心変わりが早い事ではあるが、やはり直にみる龍神の姿は美しく、これを見れただけでも召喚した甲斐があったと考えていた。要は喰われなくても満足だと思ったのである。


「願いはなんだ、申してみよ」


 だが喰われる方がより良い。断られても悪い事はないだろうと龍神信者はあの日に願った事を口に出した。


「龍神様、どうか私を食べて頂けませんか!」


 昂る気持ちを出来るだけ抑え、なるだけ冷静に言うよう努めたが、それでも少し声が震えていた。口調も、丁寧に言おうと考えていたのだが気がはやって雑になってしまった。既に口に出してしまった後であるため訂正も出来ず。龍神信者は恥じた。


「なるほど、食う……ん……?」


 龍神は龍神信者の願いを聞き、なにか思い当たる節があるのかしばし考えていた。


「……貴様もしや、俺がこの世界に来た時に『俺を食ってくれ』と願った者ではないか!?」

「なんと、御記憶にお留めくださり、ありがたく存じます!」


 龍神は少し龍神信者から距離をとるような仕草を取ると、こう言葉を漏らした。


「……無理・・だ……」


 その言葉は龍神信者にはハッキリと聞き取れなかった。龍神信者はもちろん、今何を言ったのか、それを聞こうとした。


 しかしその瞬間に床に描かれている呪紋が目が潰れるほどの光量で輝き、龍神信者は思わず目を閉じ手で光を遮った。


 少し経って光が収まり、龍神信者が目を開けた時には、龍神の姿はそこに無かった。

 龍神が我って言ってるのは気取ってるからです。俺が素の一人称。ちなみに、龍神信者の言葉を喋れているのは体内に龍神信者と同じ言葉を話す人が居て、その知識を借りているからです。


 龍神は確かに上位存在ではあるのですが、精神が割と人っぽいし死という概念も持っています。人そのものではないけど。なので自ら陽気に死ににいこうとしている龍神信者は割とマジで気色悪く思ってる。

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