私の旦那様、カッコ良すぎませんこと?
私はいわば交渉のための道具だった。
長い間・・・本当に永い間、人類と魔族は争っていた。
殺し殺され、奪い奪われた。始まりがなんだったのか誰も覚えていない。それほど長い間戦いを続けてきた。
互いを憎み、恨み、蔑んだ。
私は、生まれてはいけない子だった。
存在してはいけないモノだった。
魔族の母と人間の父の許されない恋。彼らはコソコソと隠れて密会し、互いを深く深く愛した。
そして見つかった。彼らは捕らえられ、そして二人の間の子ができてしまったことがわかった。
彼らは私を産むつもりなどなかった。どちらの国も産ませるつもりもなかった。生まれる前に殺すつもりだった。
だが状況が変わった。
人間と魔族、どちらも殺戮する化け物が冥府より出てしまったのだ。
両種族は協力するしかなかった。
そして両種族間の協力姿勢を示すかのような私を殺すわけにはいかなくなった。
彼らは私という存在を最大限利用することにした。
生まれ出てきた私は道具となった。
幼いながら、私は自らの置かれている立場を理解した。
心を殺した。誰もが私を一人の人として見ないから。
表情は動かなくなった。動かす意味がないから。
痛みは消えた。感じてしまったら耐えられないから。
言葉を発さなくなった。何を言っても誰も聞かないから。
瞳は色を映さなくなった。見ても何にもならないから。
私という存在はひどく曖昧になった。
でも、彼に会った。
白黒の世界の中、彼の髪や瞳の色がひどく鮮やかに私の目に映った。
彼は人間だった。でもそんなの関係なかった。魔族の血も流れる私を軽蔑したりせず『私』を見てくれた。
彼だけは私を見てくれた。聞いてくれた。
私が何かしようとしたら、いくらでも待ってくれていた。
『嬉しい』『楽しい』私は感情というものを知った。
彼のおかげで私は人らしさを取り戻した。
「わたくしの愛しの旦那様。わたくし、貴方に心から感謝していてよ。貴方のためだったら魔族の国を滅ぼして貴方に捧げてもいいし、欲しい物がおありなら宇宙からでも冥府からでも取ってくるわ。」
「スーザ。私の望みは一つだけ、君に隣にいてもらうことだ。」
本当にわたくしの旦那様は素敵な方ですわ。みなさま見ていらして?この優しくてかっこいいこちらのフェリクス様、わたくしの旦那様でしてよ!
魔族の長様を脅し・・・コホン。説得してこの度結婚致しましたの。どうやってとは言いませんが・・・どうやら混血になると魔族の長所と人間の長所のいいとこ取りになるみたいですの。わたくし、恋した方を射止めて守るために力を磨きましたの。だからそこそこには強いんですのよ?
え?わたくし達の馴れ初めが聞きたい?ですって?
旦那様がいかに素晴らしい方か語るのは是非ともしたいのですけれど・・・ごめんあそばせ。わたくし今は旦那様とのお茶会で忙しいんですの。
時間が空いたらいずれ話しますわ。
旦那様は近頃お忙しくてあまり二人の時間が取れないんですの。
寂しいですけれど、文句は言いませんわ。旦那様のご迷惑になってしまうもの。
「旦那様は欲のない方ですわね。」
「いや、私は欲深いよ。女神よりも美しい君を自分だけのものにしたいと思っているからね。」
「ふふ、わたくしはいつでも、いつまでも、貴方様のものよ。」
そう言ったら、旦那様は席を立ち私の前に跪いた。
・・・カッコ良すぎませんこと?
そして私を見上げながら不安そうにこちらを見てきた。
・・・可愛くもありますわね。
「スーザ。私の女神。これからも、私の隣にいてくれるか?不甲斐ない私でも?」
「旦那様は不甲斐なくなどありませんわ!!誰かがそのようなことを言ったんですの!?旦那さまはかっこよくて優しくて素敵で、わたくしが惚れ込んだ方でしてよ。離れるなどありえませんわ!!!・・・旦那様はわたくしの隣にいてくださる?どんなに素敵なお方が現れても、わたくしを好いたままでいてくださいます?」
わたくし、可愛げがないことは分かってますの。
殿方に好かれるような人でないことも。
それに・・・
初めてもらった愛情が離れたらと考えると、恐ろしい。
わたくしは、旦那様に依存しているわ・・・。
「私の愛しいスーザ。たとえ神話に出てくる美の女神が目の前に現れても私の心は動かないよ。私の心は君だけのものだ。」
「でも、わたくし、可愛くありませんわ。」
「君はこの世の誰よりも美しく可愛らしいよ、愛しいスーザ。」
わたくし、顔が赤くなってる気がしますわ。
な、なんだか暑いですわね。もう夏が近づいているのかしら!?
わたくしの旦那様がカッコ良すぎますわ!!!
読んでくださり感謝しかございません。
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