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連鎖12

 「もう一ラウンド……か」

 「キリがありませんね」

 それに合わせてこちらも再度それぞれの武器を構えなおす。

 リッチの吐き出していた黄色いガスが纏わりついたように、黄色い靄に包まれたゾンビたちが、ゆらゆらと揺れながらにじり寄ってくる。

 その動きと外見とが相まって幽霊のような印象を受けるが、どの道切れば死ぬのだ。

 ――問題は、先程間違いなく致命傷を与えたはずの個体も平気で動いているという点だが。


 「ォ、ォァ……ッ!」

 「くっ」

 一番距離の近かったゾンビが、残っている左手一本で掴みに来るのを躱し、同時に跳ね上げた刀で今度こそ両腕を奪う。

 「はっ!」

 傷口を一瞬で周囲の靄が包み込み、一度は足を止めたそいつが再び動き出すのを、シラの蛇が後ろへ吹き飛ばした。


 「ガ……」

 ここでは貴重な墓石に叩きつけられて崩れ落ちるゾンビ。

 こんどこそ死んだのかどうか、それはここからでは分からない。

 「ガァ、ァァ」

 「ォ、ォ、ァ」

 その攻防を戦闘開始の合図にするように他のゾンビたちが一斉に襲い掛かってきたから。


 「ちぃっ!!」

 咄嗟に護符に手をやり、同時に加速して二体の脇の間を通り抜けると、振り向くと同時に上段へ振りかぶる。

 「はぁっ!!」

 こちらを追って振り向こうとするゾンビたち。その前に右側の個体の首に振り下ろした一撃が、目標過たずその頭を地面に向けて弾き飛ばした。

 「ォ……」

 その隣にいた個体は、すぐ横の仲間が三度目の死を味わった事を理解したのだろうか。

漏らした声からそれをうかがい知ることはできない。

 「たああっ!!」

 分かっていることは、シラの蛇によってそいつもすぐ後を追ったという事。


 敵=俺たちは今や正面と後ろに分かれている。その事をゾンビたちが知ってそれぞれの敵に向き直ろうとし出す。

 とはいえ、もとより亀の如き遅さのゾンビがバラバラに動いて戦力になるはずもない。

 「はあっ!」

 「やっ!!」

 蛇が舞い、刃が振り下ろされ、その度に数を減らしていく。

 そして――また蘇る。

 「アアアアァァァァァァァッッ!!!」

 リッチの叫びが、最早人体とは呼べない程に破壊された者ですらも再び酷使せんと立ち上がらせる。


 「ユートさん!」

 「なんだ!」

 そいつらを相手にしながら叫び合う俺たち。

 その間にも、シラの蛇の一匹が、比較的軽傷なゾンビの腰に巻き付くと、緩慢な動きで抗っているそいつを持ち上げた。

 残った三匹の蛇が、その周囲に群がる連中を薙ぎ払うのも忘れない。

 「リッチ本体を!」

 その声に合わせて、ゾンビを掴んだ蛇が鞭のように大きくしなる――ピッチャーの投球フォームのように。


 「ッ!了解した!!」

 向かってきたゾンビを蹴り倒して、それらを操るリッチに向き直る。

 奴自身はゾンビを操るのに集中しているのか、直接攻撃に参加する気配はない。

 ――リッチは元々、王侯貴族や権力者がアンデッドとなったものだとされている。文字通り腐っても支配階級だとでも言うのだろうか。


 「行きます!」

 シラの声。同時にゾンビが一体、リッチの方へと向けて放り投げられた。

 「オォ――」

 距離を稼ぐためか上に向けてリリースされたそいつが緩やかな放物線を描いて飛んでいく。行き先は勿論、腐った体では回避はおろか、突然の出来事を理解する事すら追いついていないだろうアンデッド共の今の主。

 そのアンデッドを追いかけるようにして、俺は駆けだす。

 刀を八相に取り、走り出すと同時に肩の上に峰を置く。

 投げつけられたゾンビがリッチに叩きつけられる――と言っても、その頃には大した勢いはなくなっている。


 「ガ……」

 「オォォ」

 ただ飛んできたそのゾンビによって、一瞬リッチの動きを止めたに過ぎない。

 だが護符によって加速し、その恩恵を活かすために突進する俺には、その一瞬で十分だった。


 「あああっ!!」

 叫び、それによってリッチの冷静さを奪う。

 飛び道具を持たない相手への突進と咆哮のセットが効果的なのは生前も死後も変わらない。

 「オオッ」

 リッチが応えるように叫び、大きく手を振ると、上に乗っていたゾンビが念力のように横に飛び退く。

 いや、飛び退いたのではない。吹き飛ばされたのだ――まあ、どちらでもいい。奴が逃げるだけの時間的余裕はそいつに使われたのだから。


 リッチが起き上がり、何とか振り払おうと手を動かす。

 その時には既に、右足を踏み込むと同時に袈裟懸けに斬り下ろしている。

 「ああああっ!!」

 「オッ!?」

 奴と同じか、それ以上かの咆哮。

 そして向かって右の首から入った斬撃は、ほとんど肉のない身体を切り裂いて鳩尾を経由し、向かって左の胸の下から体外へと通り抜けた。


 「ア……」

 今奴の上半身の上と下を繋いでいるのは、たった一本の背骨を除けば何も残っていない。

 「ア……オ……」

 血さえも流れぬリッチの体。

 代わりに例の黄色いガスが、破裂したガス管みたいに勢いよく噴き出していた。

 「オ……」

 その勢いに押されるように、ゆっくり、ゆっくりとリッチの体が後ろ側に傾斜していく。

と、同時に後方でいくつもの崩れ落ちる音。

 「ア……」

 そしてそれを追うようにして大の字に倒れたリッチの体が、その際の衝撃によってばらばらの骨へと変わる。


 血はついていないが、血振り。

 念のため、転がったしゃれこうべを蹴り飛ばして見るが、ただの古びたカルシウムに過ぎないそれは、もう動くこともない。

 「ひとまず、片付いたか」

 振り返って、同じように今度こそ動かぬ死体となった元ゾンビたちの中心にいた二人の方へ戻っていく。


 「ユートさん」

 迎えてくれたシラとハイタッチをかわす。

 ひとまずはこれで危機は去った。

 「さて……」

 なら、今のうちに確認しなければならない事がある。

 恐らくこの展開があるだろうと予想していたような表情のジェルメに、思っている通りの問いをぶつけた。

 「で、あんたと魔女はどういう関係だ?奴は何の恨みであんたを襲った?」


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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