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虫鬻ぐ姫君7

 身を守るものがもうない。逃げる場所を失ったが故のヤケクソだ――奴がそう判断したかどうかは知らない。

 分かるのは、奴も自分の能力についての知識がない訳ではないという事。

 奴が散弾を発射するのには剣を振りかざす必要がある。そしてその得物の長大さ故に、繰り出される攻撃は自然と薙ぎ払いか振り下ろしに限定され、ナイフのように小刻みに振り回すような使い方は出来ない。

 剣の振りに合わせて体ごと回転させることで連続して斬りつけることも可能ではあるが、光弾の再装填はそれよりは遅い。


 つまり、相手に剣の間合まで飛び込まれた時には、光弾発射機ではなく本来の使い方で迎撃せざるを得ない。


 「くたばりやがれ!!」

 奴の一撃が俺の胴体を足と切り分けようと叩き込まれた。

 まさしくフルスイング。水平のギロチンと言っていい一撃。

 振りかぶって捨て身で突撃した俺の、がら空きの腹に横一閃。

 そこで俺の人生は終わりだ――普通なら。


 「ッ!!」

 一瞬、腹に力を入れる。

 閃光と爆発。そして僅かな衝撃。

 真っ二つになったのは、奴の剣の方だった。

 「なん――」

 奴の声はそこで終わった。

 鍔元だけになったそれを手放し、突っ込んでくる相手を何とか止めようとしてその巨体を縮こまらせて鎧で受けようとするのは、奴が十分に場慣れしていることの証ではあった。


 だが、それだけだ。

 山の中で動きやすくする為だろうか、或いはただ単に持っていないのか、鎧と同じ鋼の脚絆やレギンスではなく革のブーツを履いていたその右足の甲に、地面に縫い付けるように刀を突き立てる。

 「ぐおおっ!?」

 奴が悶絶するのと同時に、すぐさま引き抜くと、その傷口を踏みつけて抑える。


 恐らく、気絶するぐらい痛いだろう。

 思わず傷を庇おうとしたのか、柄だけになった得物を取り落して足に意識を向かわせている。

 だがそれもすぐになくなったはずだ。足を踏みつけた次の一歩で奴の脇に動き、脇の下から心臓を貫いたのだから。


 「ごっ……!?」

 ケツを蹴り飛ばした反動で刀を引き抜く。

 べっとりとついた血は、血振り程度では全くなくならなかった。

 「俺はゴミ漁りだ――」

 守り切った山小屋に目をやる。

 「――ゴミじゃねえ」

 リアクティブアーマー(爆発反応装甲)。能力を発動するためのエネルギーを自身の周囲に障壁として展開し、外部からの衝撃によって起爆することで防御と反撃を行う。

 俺はスカベンジャーだ。

 味方を巻き込むその能力を所構わず使うような真似はしない。


 「ふん……」

 周囲の安全を確認する。

 既にこの場に残っている山賊は死体だけだ。

 それを確かめた俺は、適当な死体の衣服から血のついていない部分を一部切り取ると、そいつで刀身を拭った。

 後はあいつらを無事に送り届ければ仕事は終わり。

 その送り届ける対象のいる方に目をやると、既に自分の方のけりをつけたシラと目が合う。

 向こうも彼女以外は死体だけ。小屋にはほとんど被害はない。


 「俺は、ゴミ漁り(スカベンジャー)だ。ゴミじゃねえ」

 ゴミ漁りにもなれなかった奴の末路を一瞥して、もう一度さっきの言葉を口にした。


(つづく)

今日は短め

続きは明日に

次回から新章開始します

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