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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅶ 白の城
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Ⅶ 白の城 3. 眠れる王

 プロミーを含む一行は王の間へと先導された。そこは堂々とした玉座が二つある部屋だった。その奥には白いカーテンで守られた金色の寝台が置いてあった。玉座の前には銀の髪の女王エーデルと、その隣に白い髪の少年が待っていた。女王が挨拶をした。


「これで全員が揃いましたね。ルークの二人は今は赤のポーンの攻め手に備えて集まれません」


 ロッドは女王の前に来ると、片膝ついて帰還の挨拶をした。女王は微笑んだ。


「よく戻って参りました、ロッド。そしてプロミー」


 女王はプロミーに優しい瞳を向けた。団体馬上試合の時の甲冑姿とは違って、雪色のドレスに覆われた姿は優美だった。女王は続けて言った。


「ここには眠れる王がいらっしゃいます」


 エーデルは一行を玉座の裏側の寝台の方へ誘った。ロッドとポーンたちはそれに従った。女王は寝台に掛けられた厚いカーテンをそっと開いた。そこには、眠れる人がいた。プロミーと同じ金髪の巻き毛で、顔色は良く、息も穏やかだった。プロミーは、彼が自分の元の姿であることを思った。自分は、王の夢。夢の登場人物が自分の眠れる姿を見つめている。王が目覚めれば、自分は消える。しかし、なぜか漠然とこの目の前の人は“違うのではないか”と思った。


 一行が一通り王との謁見を終えると、ラルゴはその場を和ませるような柔らかい声音で、一同に提案した。


「皆さんお揃いになられたことですから、軽く自己紹介をしませんか?」


 一同は了承し、一人一人短く自己紹介を語った。そして最後に、王の間に最初からいた白髪の少年の番になった。


「僕はキール村の鳥飼をしているレン・アーデンと言います。僕の祖先はアルビノの魔術師です。でも僕自身には魔力はありません。今回、王城からゲームの参謀として招聘されました」


 ラルゴが話を引き取った。


「それでは、この王の御前で作戦を話し合いたいと思います。このあとはレンさんにお任せします」


「――みなさんは、これからどうされたいですか?」


 アルビノの少年は、控えめな視線で一同を見渡した。


「私は赤の王城へ行く」


 壁にもたれかかっていた無口な槍使いは、一言きっぱりと低い声で意思表明をした。


「僕もエンドと一緒に行きます」


 職人の少年もまた、騎士の青年にどこまでも着いていく決意があるというふうに、自分の考えをはっきり伝えた。


「俺も攻め手の方がいいのだが」


 魔術師は、前者の二人よりはそれほど気負ったそぶりを見せずに答えた。


王から戦略を依頼されたという少年は、遠慮がちに職人を見ながら、かの者の持つ武器についてひとこと尋ねた。


「あの、魔法アイテム職人のパズルさん。魔法解除の武器をお持ちだと伺いましたが、ルークの異空間魔術の解除には利用できるでしょうか?」


 職人は自信を持って答えた。


「旅の間に完成できると思います! これは職人の意地にかけてもやって見せますよ!」


「……分かりました」


 白髪の少年は顎に手を当て、少し考えてから小さく頷いた。その紅い瞳は怜悧であり、プロミーはなぜか会ったことのないアルビノの魔術師を“思い出した”。優しく、温かく、頼もしく……。


 大きな本を抱えていた学者の女性は、小さく手を上げて告げた。


「あのう、私は遠出などしたことないので、お城で守り手側に就きたいんですが……。この“本”もそちらの方が向いていると思いますし……」


 中央大陸の格好をした商人の少女は、気負わずに答えた。


「私は攻守どっちでも構わないわよ。活躍さえできればね」


 ロッドの番が回った。騎士は大らかに言った。


「では私かな。私は旅をしながら赤の王都へ行きたい。途中クエストがあれば、それに参加するかも知れない」


「私は従者ですのでロッドさまの行くところに従いたいです」


 最後に緑の三角帽子の少年は、穏やかに発言した。


「僕も赤の王都まで行きたいと思います」


 戦略を任された少年は全員の意見を聞くと、一度辺りを見回した。紅い目は凛々しさを垣間見せた。


「分かりました。少し考えを纏めてみます……。僕は王城に詰めていようと思っています」


「ところでレンさんは、特に武器をお持ちじゃなかったですよね!? 即席で造った物ですが、良かったらこれをどうぞ!」


 そう言って職人は白い肩掛け鞄から、根元に魔法石が嵌め込まれた、羽のついた大きな白い扇を取り出した。


「これは古の東大陸で使われていた“武器”です!」


 アルビノの少年は遠慮深げに扇を受け取ると、とりあえずゆらゆらとあおいでみた。その姿は、奇妙に様になっていた。


「随分似合うわねぇ、レン!」


 商人の少女が明るく褒めた。本を胸に抱えた学者も頷いた。


「ええ、お似合いですね。その扇は、東大陸では将軍を補佐する参謀が使っていたものですよね。レンさんにはぴったりですね」


 職人は好評なのを見て、顔をほころばせながら続きを話した。


「扇の風には、心を落ち着かせる魔法が働きます。そしてなんと言っても武器たる所以は――」


 職人の話の途中で王の間の高窓から風が一陣流れた。そしてその風は小さな葉っぱを幾枚か運んできた。葉はその場にいた人々の手に一枚づつ収まった。突然の出来事の中、アルビノの少年は魔術師に小さく尋ねた。


「あの、クオさん。一つ質問いいですか? 魔術で最大何人まで運ぶことができますか?」




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