Ⅵ 影絵師リュージェ 4. クロスを食べた空飛ぶ魚 3
夕暮れ空の薄紫色が夜の黒と入れ替わる間際、小さな町の城門の門衛が、一つあくびをした。ここは白の国の直轄領である。白の王都シエララントから二日半の所であった。
門衛は時間が来たので扉を閉めようとした。そこへ一陣の風が通った。門衛はしばし手を止めたが、それが気のせいと知ると門を閉ざした。
「ふぅ。ギリギリセーフ!」
門衛から離れた町の中で、一人の青年が呟いた。蜂蜜色の髪の青年は町の宿屋を探し、宿泊の手はずを整えると、下の階の酒場で噂話に聞き耳を立てた。八月六日夜のことだった。
「赤のポーンの騎士バスクが王都シエララントから一日の距離の町にいるってさ。何でも白のポーンの行商人の娘と勝負して、三日間そこに留まるよう取り決めたらしいぜ」
「チェックまで近いのにじらすねぇ」
「でも白のポーン達が王城に集まっているから、どっちにしても今は攻められないんじゃないの?」
「そうだろうな」
青年はその話を聞くと、一人「ふーん」と呟いた。猫耳の給仕が注文を取りに来ると、ビールと野菜のソテーを頼んだ。
「それじゃオレもちょっとここで一休みだね」
青年、フローは一言呟いた。




