Ⅴ- ii 館長リアル (8月5日、8月6日) 6. 重い空
えんじと豊は今日の日中は大学図書館から借りてきた卒論の資料の読破を進め、夕方から大図書館へと向かっていた。夜間アルバイトは休みだった。
八月六日現在、二人が大学図書館の地下の書庫で本を探し始めて五日目だった。昨日までの四日間で書庫の半分を確認したが、本は見つかる気配が無かった。
豊が運転する車の中で、えんじは無言で車窓の外を見つめていた。曇った灰色の空が市街地に溶け込んでいた。
「見つからないねぇ、えんじ」
豊は呟いた。隣に座るえんじは重たさを含む声で短く「そうさね」と返した。
この本探しで何も見つからなかったら、“The Chess”の謎を解く手がかりが無くなる。えんじは他の方法を考えてみることもあったが、今の所何も思いつかなかった。
豊は再び重たく呟いた。
「紅雲楼でも王様がいないよねぇ」
夏休み五日目の昨日は“The Chess”で二度目の夢を見た。エンドとパズルはイリュイトを旅立ち白の城に着いて、王城に集まった同じ白のポーンのプレイヤーたちと会っていた。紅雲楼では読者同士新しい夢を語って盛り上がっていた。夢の中で顔を合わせると、紅雲楼の中でも親しみが持て、距離が近くなった。が、白の読者はキングとポーンの二人がずっと参加していなかった。えんじと豊は一日目以来誰かに新しくメッセージを送ることは無かったが、紅雲楼の中では少しづつコメントを交わし合うグループが出来ていた。キングの読者が不在の中、白のプレイヤーたちの中でははまだオフ会の話は浮かび上がっていなかった。
「うぅん。今日は見つかるかなぁ……」
豊の呟きにえんじは気持ちが重くなった。
豊の携帯端末が着信を知らせた。
『謎の人からメッセージです』




