Ⅴ- ii 館長リアル (8月5日、8月6日) 4.クロスを探す異国風の女性
よろずやブンガクサークルは十五時に終わった。たまゆらとひいは“円卓広場”の部屋を後にすると、同じ三階の海側にある一人掛けの椅子が並ぶエリアへと場所を変えた。二人はいつもサークルが終わった後、一時間程度大図書館でお喋りをしてから帰宅するのだった。
一人掛けの椅子は籐で編まれたゆったりしたものだった。前面はガラス張りで海が見渡せた。背後は壁になっており、通路からは隔てられていた。所々に観葉植物が配置されていた。普段この椅子に座る者はあまりいない。それゆえ静かな場所をたまゆらとひいは独占することができた。
たまゆらとひいはいつも通り四方山話に花を咲かせていた。すると、後ろから聞き慣れない若い女性に声を掛けられた。
「“円卓広場”から来た白のポーンの読者よね?」
たまゆらとひいは後ろを振り返った。そこにはピンク色の髪で小麦色の肌を持つ異国の人のような姿の女性がいた。初めて見るその人は、その場の景色に違和感なく立ち、堂々としていた。たまゆらは、まるで自分がいきなり異国に来てしまったような錯覚を覚えた。
たまゆらはひいと見つめ合った。ひいもこの女性は知らないようだった。
「はい、そうです……」
たまゆらは不思議な者に一言答えた。女性は気の強そうな顔立ちで二人に尋ねた。
「この辺に、白の駒のクロスが落ちている所を見なかった?」
不思議な質問に、たまゆらは短く「いいえ」と答えた。この女性は“The Chess”の関係者だろうか、とたまゆらが思った時、女性が答えた。
「私はこの図書館の館長で弥生リアルといいます。白の駒のクロスが盗まれて、持ち主が移動して結局この図書館内に紛失してしまったの。多分、ここら辺に落ちてそうなんだけど……。駒のクロス同士がクロスのやり取りをしてもこんなことは起こらないんだけどね。で、今一人で探している所なわけ」
たまゆらは説明を受けても事情が掴めなかった。クロスが盗まれたとは? クロスの持ち主がクロスが盗まれたことによって移動したら、なぜ大図書館内にクロスが落ちているのか?
女性は二人を見た。
「白の駒のクロスを“どこかで”見つけたら、二階総合カウンターに伝えてね」
頭が整理できていないたまゆらを置いて、女性は去って行った。
「今の不思議な人の話、明日のサークルで言おう! たまゆらちゃん」
ひいはたまゆらに言った。たまゆらは不思議な感覚を整理しようとした。館長はThe Chess のキャラクターのような人だった。しかしどこまでも現実的であった。まるでこの図書館もThe Chess の世界と同じ“世界”の一つに過ぎないと思わせるような、強気な存在感の人だった。異界の旅人が本当にいるとしたら、この館長がそうなのかも知れない、とたまゆらは頭を巡らせた。
たまゆらは思考を現実に戻し、ひいに頷いた。
「そうだね……」




