Ⅴ- ii 館長リアル (8月5日、8月6日) 3. The Chess 情報倉庫 2
秀が最初に観戦者用クロスを借りたのは高校一年生の時だった。もともと本好きで、部活動に入らず大図書館に通っていた。“The Chess”を借りたのも、新刊予約コーナーのボードを見て、知らない本があり不思議に思ったからだった。
それから自分のサイトを作ったのは、観戦者用クロスで不思議な夢を見てすぐだった。不思議な夢は目覚めと共に忘れていく。それが惜しくて、ベッドの中で携帯端末に夢の中身をメモしたことが始まりだった。それからこの“本”の存在の不思議さを同じ借り手と共有したくて自分でサイトを作った。ネット上にウェブサイトを作るのは初めてだったが、独学で作り上げた。サイトには毎年閲覧者がちらほらいたが、足跡を残す書き込みは無かった。今までこの不思議な物語を共有する人はいなかったのだった。
秀が先ほどの返信から一時間半が経った後、再びガーラの中の人から今日の“The Chess”の夢の物語をまとめて送られてきた。
『数人分がありますので、更新が大変かと思いますが宜しくお願いします。新しい物語が来たら、また連絡してもいいですか? 今度機会があれば、会ってお話をしてみたいですね!』
秀は新しい縁ににこりと微笑んだ。
『ぜひまた夢の物語を教えて下さい。頑張ってサイトを更新します。
そうですね。夏休み中にお会いできるといいのですが……』
秀は素早く返信すると、メッセージをじっくり読んでから、サイトを更新した。その間、オフ会のことを考えた。交流サイトでは、皆忙しいのか、自分の掲示板の更新しかされていないことが多かった。なのでオフ会の話は持ち上がりづらい雰囲気だった。秀は自分から幹事になる気にはなれなかった。
「はぁぁぁ……」
秀は小さくあくびをした。夕方だった。夢の中の主人公リュージェが活動的になる時間帯だ、と思った。秀はパソコンから離れて、夕食を作りに行った。
夕食を作り終え机に戻ると、新しいメッセージが入っていた。
『初めまして。私は白のビショップのマーブルです。サイトを拝見したら、他の読者の物語まで掲載されていたのでコメントしに来ました。もし良かったら、私の夢の内容もお教えしますので一緒に載せてはどうでしょうか。僧侶なので冒険ではなくて事務的な動きなのですが。それも消えてしまったクロスの情報を集めるというものですが……』
秀は新しいコメントに即答した。
『初めまして。サイトをご覧になって下さったのですね(*^_^*) ぜひお願いします』
返信はすぐに来た。
『お返事ありがとうございます。
分かりました。これから物語を纏めてそちらにお送りします』
それから秀が夕食を食べ終わった頃、物語がメッセージで送られてきた。それはビショップのマーブルが白の王城で、同じ白のポーンのピアスン・ワトソンから、朝起きたらいきなりクロスが失くなっていたと泣きながら訴えられた所から始まっていた。秀は知らない物語だった。情報が集まってくることに、秀は気持ちが高揚した。
マーブルの物語を投稿した時、サイトの掲示板にコメントの書き込みがあった。
『ニックネーム 本の森の案内人 8/5 18:00
わぁ。今日見たらたくさん更新されてるwww 』
『ニックネーム そば定食 8/5 18:05
本当ですね。白ばかりですねw』
『ニックネーム 宇宙外交官の友達 8/5 18:10
管理人、更新乙! でも私はネタバレになるからチェスが終わってから見るわ』
秀はいきなり掲示板のコメントが増えていて驚いた。紅雲楼のプレイヤー専用のページを見に行ったら、そこの掲示板に自分のサイトに誘導する書き込みがあった。
『本の森の案内人 8/5 17:55
ここのサイトに、The Chess のあらすじが一部読めるようになってる!!
→The Chess 情報倉庫』
ニックネームは全て赤のポーンの人だった。秀は頭の中で「反応来た━(゜∀゜)━ !!!!」と思った。しばらくすると、またサイトの掲示板にコメントが入った。
『ニックネーム ピアノは苦手 8/5 18:30
読んだよ。全部終わったら、私も物語を送るよ』
『ニックネーム 手書きは苦手 8/5 18:30
読んだよ。全部終わったら、私も物語を送るよ』
秀は浮かれて、コメントの一つ一つに返事を書いていった。それが終わると、いつの間にか十九時半になっていた。その間に新しいコメントが書き込まれていた。
『ニックネーム 推理小説愛好家 8/5 19:15
毎年やってくれると面白いですね』
『ニックネーム 島村 8/5 19:20
更新大変でしたでしょう。ご無理はなさらずに』
新しいコメントにも返事を返した。
秀は明日も反応があったら楽しいだろうな、と思った。




