Ⅴ- ii 館長リアル (8月5日、8月6日) 2. クロス会議2
「それで、今日のチェスはどうだったい?」
海老名会長が二人が落ち着いた様子を見て再びひいやたまゆらに話を向けた。ひいは夢の冒険を話し続けた。時々たまゆらが簡潔な言葉で合いの手を入れた。
一段落すると、海老名会長はひいのパソコンを覗きこんだ。そこには紅雲楼の“The Chess”の交流サイトが表示されていた。
「ところで、紅雲楼の方はどうかい? 駒のクロスの方々よ?」
話を振られてひいはパソコンを海老名会長の方へ向けた。
「紅白共に二人くらい活動のない人がいます。キングは紅白二人とも参加していません」
たまゆらは静かにその場の仲間たちに説明した。
「今年は王様はネット上にいないんだぁ。キングは毎年ネット上に現れるとは限らないからなぁ」
海老名会長がチョコスティックを指で振りながら大きく息を吐いた。
「The Chess 情報倉庫の方はサイトが更新されていたよね」
琥珀が付け足すように言った。
「はい。リュージェさんは今日は試合をしたので、紅雲楼でもサイト主さんが盛り上がっているようでした」
たまゆらは、自分の携帯端末で“The Chess”の交流ページを海老名会長に見せた。そこには、リュージェの読者の個人掲示板が表示してあった。
『今日はリュージェさんは“試合”がありました。
試合キタ━(゜∀゜)━( ゜∀)━( ゜)━( )━(゜ )━(∀゜ )━(゜∀゜)━ !!!!
いつも眠たそうな主人公だったのですが、今日は凛々しかったです!! (゜∀゜) !!
それから白の城に着きました。白の城でお会いした方もいらっしゃいますよね。
物語を私の個人サイトに詳しく載せましたので、良かったらそちらもどうぞ』
個人サイトへ向かうと、そこには“The Chess 影絵師リュージェ”というタイトルで、あらすじが滔々と語られていた。
「このサイト主さんって“The Chess”にかける情熱がすごいよねー」
海老名会長が感心して言った。ひいも自分の携帯端末でサイトへ行き、物語を読んだ。
「すごい面白いね、たまゆらちゃん!」
ひいは感動をたまゆらに伝えた。たまゆらも海老名会長から返してもらった携帯端末でサイトを見た。“The Chess”の文体ではなく、サイト主の文体で書かれていた。同じ“The Chess”でも他の主人公の話は確かに面白かった。
たまゆらはサイトに軽く目を通すと、短くひいに同意した。
「そうだね、ひい」
「声を掛けてみれば、お二人さんよ」
海老名会長は交互に二人の顔を見て言った。
「えびちゃん、今日は積極的だねー」
部屋の奥で三年生の先輩が茶々を入れた。
「いいですよ!」
ひいは元気よく話に乗った。
「同じ仲間と話してみたいから、私が掲示板に返信を送ってみるね!」
決断したひいが、たまゆらには夢の中の主人公と重なった。




