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Ⅳ-ii クロスの盗難 (8月4日、8月5日) 3. クロスの盗難
夏休みの教室は静かであった。女生徒は一人、つつじ女子高校の自分の教室に来ていた。
教室後方の机に夏休みの教室には不似合いな物が一つ乗せてあった。白い肩掛け鞄だった。女生徒は静かな場所で、ちらりと好奇心が起こった。
「財布が入っているかも」
女生徒は鞄のポケットを探ってみた。そこには狙いの物は無かったが、一つ銀色のアクセサリーが入っていた。女生徒はつまらなさそうにそれを眺めた。それは十字架の付いたネックレスだった。十字架の中には白い石が嵌め込まれていて、正三角形の上に小ぶりの円が乗っている模様が見えた。
女生徒は最初鞄に戻そうかと思った。だがその前にそのネックレスが何であるか思い出した。これは大図書館で貸し出している“本”である。女生徒の首元には、飾りのないクロスが下げられていた。
「コレって……売れる?」
女生徒は急いでそれを自分の服のポケットに仕舞い込んだ。そして、教室を出た。




