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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅳ アルビノの少年
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Ⅳ アルビノの少年 3. さかさま砂漠

 寝台の枕元に止めていた風見鶏が夜明けの時を告げた。レンはその鳥の声で目を覚ました。起き上がると、身支度を整え、旅の支度を始めた。レンは城主の間へ行き、城主に別れを告げた。


「キルシュ公、どうもありがとうございました。僕はすぐ旅立ちます。ガーラさんが空の上を北西に進んだのなら、今から僕が追えば半日の距離で追い付きます」


 キルシュ公の隣にいたルネがレンに尋ねた。


「騎士バスクとの謎かけはどうするのですか?」


 レンは首を横に振った。


「キルシュ公とルネさんにここで答えをお教えしますので、バスクさんにお伝え下さい」


「分かった」


 キルシュ公が大きく頷いた。レンは答えを二人に伝えた。二人は驚いた後、頷いた。


「答えは預かった。しかし騎士バスクはレンの不在を認めるかのう」


「きっとバスクさんなら、昨日すぐに答えられなかった分をペナルティとして今日一日こちらに滞在するでしょう。その後、僕を追うでしょう。別の白のポーンに会って新しい勝負で戦いたいと思うと予想できます。商人のガーラさんは夜は裏の顔があるとラルゴさんから聞きました。勝負事には負けない方だと。それにバスクさんは三つ頸の翼竜と戦うことも楽しみにする人だと思います」


 レンは語った。それは予測であり、予言のようであった。


「先が読めるのだな、レンは。それでは昨夜話していたエルシウェルド産の魔法石を渡そう」


 キルシュ公はエメラルド色の石の欠片の入った茶色い巾着をレンに渡した。レンは巾着の中身を見て質の高さに驚くと鞄にしまった。


「ありがとうございます」


「朝食をお持ちになったら宜しいわ」


 ルネが籠をレンに渡した。中身はパンと干し葡萄と野いちごのジュースだった。レンはお礼を言うと、別れを告げた。


「一晩泊めて頂いてありがとうございました。では、これで失礼します」


「お気を付けて、年若いチェスプレイヤーさん」


 ルネが城門の外までレンの後姿を見送った。



 レンはクラムディアの城を去ると、北へ向かって歩いた。黙々と歩くことは、意外と苦にならなかった。


 その日の夕方、辺りの風景が少しづつ変わっていった。土は乾いた黄土色になり、ひび割れが見えた。その先を進むと、砂砂漠となった。気が付くと、西側にあった太陽がいつの間にか東の空の端にあった。空は朝焼けの色だった。レンはコンパスを見た。北へ向いていたはずだが、先の道を南に示していた。レンの肩に乗る風見鶏は後ろ向きのままだった。レンは少し後ろに下がった。そしてある場所に立った。すると太陽は空に二つ浮かんでいた。それはまるで鏡像のようだった。


 レンは再び先に進み、しばらくするとそこで野宿をすることにした。空は明るいが、実際は夕方である。レンは鞄から一人用の白いテントを出した。テントはワンタッチで組み立てられた。そして中に入ると靴を脱ぎ、休んだ。ふわり、とあくびをした。


 レンはパンと干し肉の夕食を摂り、最後に干し葡萄を摘まんだ。空腹を満たすと睡魔が訪れた。レンは鞄から毛布を取り出し、そのまま休んだ。



 翌日も風見鶏の時を告げる鳴き声で目が覚めた。レンは外の様子を見た。辺りは夕暮れの橙色の空だった。朝食を摂ると、テントを畳んで歩き始めた。風見鶏は左肩で外側を向くように乗せた。何となく足が重たかった。レンは杖に寄り掛かりながら歩いた。しばらくすると空は紫色から黒に変わり、月が上った。レンは辺りが暗くなった風景の中で方向感覚を間違えないよう気を付けた。幸いさかさま砂漠は三つ頸の翼竜以外のモンスターはいない。レンは少し寒い気がした。砂漠の夜は気温が下がるようだった。


 昼食の時間になった。空には月が真上にあった。レンは昼食を食べるとうとうとした。身体が自然と夜の暗さに馴染んで眠たくなった。疲れも溜まっていた。レンはふつり、と意識が消えた。


 レンが目覚めたのは、辺りが夜明けの薄明かりの中だった。たっぷり六時間眠ってしまったようだった。しかし体は疲れたままだった。レンは仕方なくその場にテントを設置し、もう一休みすることにした。


 テントの中で再び眠った。レンは四日目の昼まで眠り続けると、頭がすっきりした。が、体が疲労を意識して重たかった。レンは昼食を食べるとテントをしまい、夜の黒い空の中歩き出した。月光とランタンの光のみが辺りを照らす、生き物の気配もない静かな旅だった。たまに弱い風が流れる。砂が形を変え、影が新しい風景を見せる。レンはたまに空を眺めた。探し人は空飛ぶ絨毯で移動していた。どこかで会わないかと目で探した。


 四日目の夕方、空に朝日の光が見える頃、レンはテントを設営して休んだ。


 そして五日目の夜明け、風見鶏の声とともに起きて、再び歩き出した。レンは自分の体に違和感を覚えた。体が極端に寒かった――。

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