Ⅳ アルビノの少年 1. 方向音痴の風見鶏 3
「レンさんは旅が初めてなので、西大陸の一般的な冒険者の歩き方をお伝えします。冒険者はたいてい一日に休みを入れながら八時間歩きます。今日は夕方にはクラムディアに辿り着きます。足が痛くなったらすぐ教えて下さいね。不調を癒すのもビショップの仕事ですから」
レンとラルゴは街道を北へ向けて歩いていた。レンの肩に乗る風見鶏が後ろを向いて風に揺れていた。天気は晴れていた。
歩いている最中、ラルゴの元に時々虹色の伝書鳩が肩に止まった。ラルゴは伝書鳩に触れるとその鳥がもたらした知らせを聞き取り、答えを与えた。すると伝書鳩は再び飛び立った。
「大変そうですね、ラルゴさん」
「実際に戦われるプレイヤーの方々よりは楽なものです。しかし一日仕事をさぼると五十羽以上の伝書鳩が次の日に持ち越されることになりますのでノルマは多いです。普段は王城の礼拝堂の屋根裏で伝書鳩がもたらす情報を処理していますが、他のプレイヤーたちとは違って、夜こそ酒場などで交わされる新しい情報に気を配らなければならないので、長時間労働と言えるのでしょうね。でも私は戦うよりそちらの方が性に合っていると思います」
「僕は伝書鳩は教会以外では見たことがありませんが……」
レンがラルゴに尋ねるように見た。僧侶は優しく答えた。
「そうですね。普段の生活では気にしなければ見えないものですよね。虹色の伝書鳩は酒場にも止まっていますし、相手の王城の王の間の窓に止まることもできますし、森の道や街道でも行き来しているんですよ。伝書鳩は僧侶や女王様など限られた人が扱うことができます。伝書鳩が見聞きした物は、肌で触るだけで感じることができます。もし万が一ビショップが戦ってクロスを失ってしまっても、代わりに女王様が伝書鳩で情報を収集することができます」
「王の間の話も相手に知られるということは、情報収集するビショップが大切だということですよね。一人で自分の国の王都での出来事と、相手の王城での話の両方の情報収集しなければならないのですか?」
「いいえ。ビショップは一国に二人いて、今年の場合ですが、片方が自分の王都内での出来事に対処して、もう片方が相手の王城の情報収集をしています。しかしビショップ同士では光と闇のそれぞれの相手の動きを知る必要があるので、互いに伝書鳩を付けて動きを読んだりしています」
ラルゴはビショップについてレンに語った。
「チェス開催の都市は便宜上六十四都市とうたっていますが、実際の紅白の王都はその二倍ほど離れています。その距離は歩いて十六日から二十日前後が目安です。
その中でビショップは、数ある都市を半分に分けて担当します。二人のビショップは便宜上光と闇に分けられ、光の僧侶が担当する都市はライトスクエアと呼び、闇の僧侶が担当する都市はダークスクエアと呼びます。ライトスクエアの都市の隣はダークスクエアとなるように、一人のビショップが一定の広さを担当するのではなく、地図上の都市を万遍なく担当するようにしています。私は光の僧侶です。白の闇の僧侶はマーブルです。
ビショップにはあだ名があり、私は虹の僧侶と呼ばれています。マーブルは雷の僧侶です。赤の光の僧侶はアルペジオで風の僧侶というあだ名です。赤の闇の僧侶はブラックベリで霧の僧侶と呼ばれています。あだ名は性格を表しています。
ビショップはまた、王付き僧侶と女王付き僧侶という呼び名もあります。普段の仕事で王に近い方が王付き僧侶と呼ばれ、それ以外が女王付き僧侶と呼ばれます。私は王の側近なので、王付き僧侶です。赤のビショップではブラックベリが赤の王に最も親しい側近なので王付き僧侶です。今年のビショップは皆同い年の二十四才です。
ビショップは肩書のない若い僧侶がなりますが、このチェスで昇格を試されます。王城の僧侶の中で大僧正様が次世代の大僧正候補を選び、教会組織に相談します。そして人となりに問題が無かったら、選ばれた僧侶はビショップの役割を与えられます。ビショップになった人がゲーム中つつがなくマネージャーの役割を熟すことが出来たら、チェスが終わった時に大僧正に昇格します。ゲームの勝敗は昇進とは関わりがありません。大僧正とは王城の教会の中では幹部です。チェスで大僧正になった人は、その後西大陸の教会組織での昇進が期待されるエリートになります。私はゲームで昇格がかかっていると言えるんです」
レンはたぶんラルゴは僧侶の中ではエリートで、スターチス王の信頼も厚いのだなと思った。レンはラルゴの長い話を全て吸収したというようにお礼を言った。
「分かりました、ラルゴさん。お話どうもありがとうございます」




