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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅳ アルビノの少年
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Ⅳ アルビノの少年 1. 方向音痴の風見鶏 2

 レンの住むキール村は、鳥飼たちの村である。鳥といっても、この村で飼育されているのは鉱物鳥である。鉱物鳥は動物ではなく鉱物に分類されるので、そう呼ばれている。


 レンの隣人ネモの農場では、大きな湯を蓄えた池がある。そこでネモはアヒルの世話をしていた。このアヒルは湯をすみかとし、姿が愛らしく、主に裕福な領主が子どもに買い与えたり、町の浴場主が店の看板鳥として浴槽に浮かべたりした。天然のものは鍾乳洞の中の温泉に生息しているので、温泉アヒルと呼ばれる。泳いだり鳴いたりするが、その体は羽に覆われていない。無機質で白くすべすべした白亜の肌だった。


 鉱物鳥は他にも、くちばしが螺旋状のコルク抜き鳥や、定時に巣箱から時を告げる時計鳩や、城門に住み着いて客が来ると門扉をつつくドアキツツキなど多くの種類がいた。


 鉱物鳥は、元をただせば石の精にいきつく。魔力ある石が意識を持ち、人間の形をとった者がルークであり、石の精が自然にいる鳥を真似た時、鉱物鳥になった。鉱物鳥は雌雄を持たない。一定の時期に卵を産み、雛とする。雛は魔法石の敷かれた巣の中で、太陽の光や自然の風を当てて世話をすると大きくなる。鳥飼たちは鉱物鳥を自分の子のように大切に育てて、西大陸の町々に出荷し、新しい住処へ旅立たせる。


 レンは八月一日の旅立ちの朝、旅の間養鶏所の面倒を見てくれる村の青年ブレントとともに鶏小屋へ行き、一羽の風見鶏を手元に引き寄せた。レンの育てている鳥は風見鶏だった。風見鶏は体が薄く、足は北を向き、風に合わせて体を揺らし続ける。多くの風見鶏は皆同じ方向へ向くが、その中で、その引き寄せた風見鶏は体が他の者より小さく、足は南を向いていた。


「この風見鶏は、まだ子どもでよく面倒を見ないと方角を間違えたまま覚えてしまいます。この鳥は僕が旅に連れて行きます。お手数ですが、昼間は鶏舎を開けて風を与えて、朝に時を告げる声を上げなかった元気のない鳥には、新しい魔法石を床に敷いて面倒をみてあげて下さい」


 レンはブレントに頼んだ。ブレントは頷いた。


「世話は大丈夫だよ、王様のお役に立てるよう頑張ってきたらいいさ」


「ありがとうございます」


 レンはお礼を言うと小さな風見鶏を肩に乗せ、教会へ行った。その姿は青い僧服を纏い、旅道具の入った白い鞄を肩に掛け、杖を持っており、旅の僧侶のようだった。


小さな教会の入り口の前には、人が乗れる大きさの大きな白い鳩が一羽とまっていた。村には珍しい客だった。レンは教会の中へ入った。


 教会の中には、顔見知りの中年の僧侶と、白い僧服を纏い、十字架の錫杖を手にした、琥珀色の眼の若い僧侶が待っていた。若い僧侶がレンを見て、にこりと笑った。


「僧服が似合って良かったです、レンさん」


「旅の服装と旅道具を貸して下さってありがとうございます、ラルゴさん」


 レンは頭を下げた。僧服をレンに貸したのはラルゴの提案だった。これからラルゴと旅をする。その時僧侶の旅だと人々に見られた方が安全なので、ラルゴはレンに僧服を貸し与えたのだった。レンの持つ鞄もこの僧侶が用意してくれた。中には旅の中での最低限の荷物が入っていた。


「それではこれを」


 ラルゴは駒のクロスと地図と参加者をつづった巻物をレンに手渡した。レンは駒のクロスを首に提げ、地図を鞄にしまい、巻物をちらりと見た。戦うことを約束された人々の名前の中で、自分の名前が頼りなく見えた。


「参加者は私がお教えした通りで変わっておりません。予備知識はもうレンさんがご存じの通りです」


 ラルゴはレンの不安そうな諦めたような顔を見たが、気にせず明るく言った。


「私はこのキール村から歩いて一日のキルシュ領クラムディアまでレンさんをお連れするよう王城からの伝令です。クラムディアのお城では、同じポーンの行商人の少女ガーラさんと待ち合わせをしております。ガーラさんは中央大陸からチェスに参加しています。彼女は空飛ぶ絨毯を持っており、クラムディアからはその絨毯でレンさんを白の王都まで運んでくれるということです。ガーラさんの人となりは以前お話しした通りです」


「分かりました。どうぞ宜しくお願いします、ラルゴさん」


「それと、この村の隣町では、赤のポーンの騎士バスクがクロスを受け取るということです。旅の中で会わなければいいのですが……」


 旅の始まりから心配の種を一つ告げられ、レンはこの緊張感がチェスなのだな、とゲームを実感した。


「それでは、一緒に行きましょう」


 ラルゴは不安を払拭するように、明るく先へ進んだ。


 教会の入り口を出ると、ラルゴは待たせていた白い大鳩に言葉を告げた。


「クラムディアのお城へ先回りしていて下さい。私は夕方までにそちらへ行きます」


 大鳩は意味を理解すると、大きく羽ばたき空へ飛び立った。レンとラルゴはともに歩いて村を出た。


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