How to Chess 6
7.リン・アーデン
ここで少し、チェスの歴史についてふれてみましょう。
チェスはもともと、二千年くらい前から西大陸を中心に発達したゲームです。
遠くいにしえ、西大陸では、一人の王が大陸の全ての国の盟主となった時代がありました。
彼はどの書物でもたいてい青年王と呼ばれています。
青年王を王位につかせて、王の偉業を支えたのは、紅目白髪の不老の魔術師でした。
かの者の名はリン・アーデンといい、“アルビノの魔術師”という呼び名で有名な、歴史上で最も強大な魔力を持った魔術師でした。
青年王が西大陸に均衡をもたらした時、リン・アーデンは、年に一度、西大陸に当時百五十あった城の王や領主たちが参加する、武術や魔法を使うゲーム形式の練習試合を作り上げました。
このゲームは、八×八の市松模様の盤と三十二の駒を使う、西大陸では古くからある一般的なボードゲームを元にしていました。
しかし盤上のゲームとは少し違って、プレイヤーは三十二人おり、参加者は自由に自分の冒険ができるのでした。
これが“チェス”です。
かの魔術師は、このゲームに、いくつか不思議な魔術を施しました。
その代表作は、“騎士も他国では桃尻になる”です。
ポーンは、誰にでもなれる職業です。
例えば、もともと騎士だった者も他国出身であれば、ポーンとしてチェスに参加できます。(ちなみに、ナイトになることができるのは、自国の騎士のみです)
今まで乗馬が得意だったそのポーンの騎士は、ゲームが始まると、どんなに心が通じあった愛馬であっても落馬してしまいます。
これは、アルビノの魔術師の編んだ魔術のためだといわれています。
もちろん、ゲームが終わるか、その騎士のクロスがなくなると、元通りになります。
不思議な魔術は、まだこの他にもたくさんあると言われていますが、全てゲーム自体を公平にするものか、もしくは何の害もありません。
チェスプレイヤーたちは、魔術師の施した魔術を探求し、それに遭遇することも、冒険心をくすぐる一つの楽しみとしています。
余談ですが、たいてい他国の騎士がポーンになった時は、その騎士はゲームの間ずっと愛馬とともに、徒歩で旅をするのがほとんどだそうです。