Ⅲ-ii 王様ふたり (8月1日) 3. 紙芝居『傾城西遊記』1
どうもみなさんおはよう御座います!
こたびは夏休みというのに朝から私どもの紙芝居にお集まりいただき、マコトにありがとうございます。
さてさて、今日からみなさんの夏休みが終わる八月十七日まで、毎日朝十時から、この二階『白ねこひろば』で、手作り紙芝居『西遊記』をいたします。
え、サルとブタとカッパの話なら聞き飽きた?
うん、なるほど!
この話はとても有名で御座います。
ところが私どもの紙芝居はちょっと違うので御座います。
なにが?
はてはて、みなさんがご存知の孫悟空とは、どんなサルでしょう?
『悟空は強くて、どんな妖怪も如意棒で一撃!』
うんうん。
『どんな時でも三蔵法師を助ける!』
うんうん。
『暴れん坊の男の子……?』
ところがどっこい、ここが私どもの孫悟空とは違うので御座います。
私どもが語るのは、
『暴れん坊の“女の子”』です。
さてさてそれでは、紙芝居を始めましょう。
題して『傾城西遊記』!
今日の語りを務めさせていただくのは、つつじ女子大保育学科三年、伊藤あさぎと申します。
どうぞよろしゅうお願いします。
はてさて今は昔も大昔、お隣の国中国はトウの時代、日本では大化の改新の少し前の頃で御座いました。
ある時えらーい旅のお坊さんが大きな岩山の前を通りがかった時、
『お師匠さん! お師匠さん! 後生だから山のてっぺんのお札を剥がしてワタシをこの岩山の下から助け出して下さい!』
と必死に頼む高い声がどこからか聞こえて参りました。お坊さんは、さてはこんな人里離れた荒山の道の中で、誰が助けを求めているものかと、足を止めて、辺りをきょろきょろ伺いました。しかし誰も見つかりません。額に手をかざして東西南北四方八方をぐるーりぐるりと見渡してみましたが、やっぱり声の主はどこにも見当たりませんでした。
『ココですココ!! 足元を注意深くご覧になって下さい!!』
不思議な声は、じれったそうに、お坊さんに下を向くよう呼びかけました。お坊さんは、言われたとおり、岩山のすそに目を凝らして探してみました。と、ごろごろ積み重なる大きな岩と岩の間に、小さなすきまが開いているのを見つけました。
『そうそう、ワタシはその中です!』
お坊さんは細い目をもっと細めて中を見ました。しかし中は真っ黒け。
「さて、あなたはどなたでしょうか?」
岩の下の声は答えます。
『私は大昔天界で暴れて、お釈迦さまから罰としてこの岩山の牢獄に閉じ込められたのです。どうかワタシをお助け下さい。ワタシはお師匠さまの旅のお供をしましょう』
お坊さんは尋ねました。
「私はどうしたら良いのです?」
声は答えました。
「お師匠さまは山へ登って、そこにある岩に貼っている封印のお札を剥がして下さい」
お坊さんは山へ登り、言われた通り岩の前に参りました。そこで祈りながら、お札を外しました。お札はあっという間に簡単に剥がれました。
お坊さんはまた声の聞こえる石牢の上までやって来ました。声の主はお坊さんの報告を聞くと大喜びしました。
「では、ワタシはここを出ますので、お師匠さまは遠くへ下がっていて下さい」
お坊さんは言われた通り、山を下りました。すると、後ろで山が爆発しました。すごいゴウオンで、砂煙が舞っていました。その様子にお坊さんが驚いていると、あら不思議、目の前にサルがいるではありませんか。お坊さんはそのサルに尋ねました。
「あなたが声の主ですか?」
サルは高い声で答えました。
「ワタシは孫悟空といいます。これからお師匠さまと天竺までお供致します」
お坊さんは驚きました。強烈な紅眼の小柄なサルは女の子でした。
お坊さんのことは、これからは三蔵法師と呼びましょう。
――そこに一頭の虎が現れたので御座います。悟空は手を叩いて喜びました。三蔵法師はどうして喜ぶのか尋ねました。悟空は答えます。
「ああ、これで服をゲットできるのです。お師匠さまは下がっていて下さい。ワタシが一人で戦いますので」
大きな虎に小柄なサルが戦えるものなのか、三蔵法師は心配しました。しかしその心配は無駄となりました。悟空は如意棒の一撃で虎を退治してしまったのです。三蔵法師は驚いてしまいました。悟空は三蔵法師の思いは気にせず、虎をあれやこれやと加工しました。
「この皮で、後でゆっくり服を作ろうと思います」
「あ! 痛い!!」
悟空と三蔵法師は夜に一軒の家に泊めてもらいました。そこで悟空は家の主から針と糸を借りて、先ほど獲った虎の皮で自分のズボンを縫おうと格闘していました。ですが悟空は針仕事が苦手中の苦手。なかなか思うように進みませんでした。やっとこさズボンを縫いあげると、できたてほやほやのズボンに足を入れました。
「どうです、お師匠さま。似合います? これから上の服も作ろうと思います」
それを聞いた三蔵法師は、悟空が服を縫うのが徹夜になりそうだと心配しました。三蔵法師はポンと手を叩いて、鞄から白い肌着を出しました。
「良かったら、これを着てみてはどうだろう」
「え! いいんですか、お師匠さま?」
悟空はわくわくして与えられた肌着をまとってみました。それは悟空にぴったりでした。悟空は大喜びしました。
「お師匠さま、私に衣服をありがとうございます。似合っていますか?」
三蔵法師は笑ったので御座いました。




