Ⅲ-ii 王様ふたり (8月1日) 1. 集中講義7
午後はスクリーンでビデオを見て、講義一日目の終わりを迎えた。
最後は一日の感想のレポートを提出して、終了となった。
それから聞きなれたチャイムが鳴り、講義一日目は定時に終了した。生徒たちは緊張をほどいて片付け支度をし、レポートが終わった者から教室を退室して行った。
「あなたたち、もしかしてそれ駒のクロスじゃない?」
ぞろぞろと学生たちが教室を去る群れの中に混ざって、真たちが連れ立って教壇の横を通り過ぎる時、レポートを集めていた講師が意外な単語を口にしながら一言呼び止めた。四人は驚いて振り返り、しばし立ち止まった。真は客員講師を間近で見ると、生き生きとして親しみやすそうな老婦人であったことに気が付いた。服装が明るいので、大教室の遠くの席からは中年くらいに見えていた。
朝日が代表して問いに答えた。
「はい。私たち駒のクロスを借りています。“The Chess”をご存知なのですか?」
老婦人はうんうんと大ぶりに頷き、生徒たちに気さくに話した。
「私もこの大学の卒業生なんだよ。学生時代は毎年夏休みに大図書館でクロスを借りて、熱中していたものだよ。私は駒のクロスは借りられなかったけど、毎年同じ主人公でね……。今も緑の三角帽子の子は、遠い故郷から離れた異国で旅しているのかしら……」
夢の中の登場人物と近似した境遇に思いを重ねるように、老婦人は遠くを見た。




