How to Chess 5
6.魔法本
西大陸の主な王都には、魔法本と呼ばれる、チェスの歴代の試合が記録された本があります。
魔法本は、ゲームの中でクロスを賭けた勝負、すなわち“試合”が行われた時、新しい空白のページに、誰かが書くわけでもなく自動的に、その試合の様子を逐一記録していきます。
その記述を王都の僧侶たちが、各都市の教会へ伝書鳩に託して知らせることによって、西大陸中に試合の模様が伝わっていきます。
もう一つ、魔法本は毎日暁鐘と晩鐘の時に、紅白のプレイヤーの居場所を記します。
この不思議な魔法本を製作しているのは、“鏡の国の者”と呼ばれる特殊な技能を持つ人々です。
彼らは、西大陸の人たちではありません。空間と空間の間には狭間があって、そこは霧深い森が続く所と言われています。その森の中には湖が散在し、鏡の国の者はその湖の底に国を持ちます。
その湖は、淡い光できらめく湖面を水中から見上げると、世界で起こっている様々な出来事が、幾つもの小さく仕切られた波の泡の間に、代わる代わる映るといわれています。
そして、その銀の湖面は、白い泡に手を差し入れると、ひび割れた鏡の破片をはがすように、かけらを手に取ることができます。
水のかけらは、湖面から離れると、固くなってずっと同じ世界を映し続けます。
しかし、湖の外に出てしまうと、ただの水になってしまいます。
鏡の国の者は、自分の作りたい本の世界が湖面に映った時、そのかけらを採って、湖の底の製本所へ持っていき、それを版の材料として本を製作します。
魔法本を正確に言うと、一国の興亡記から個人の伝記まで、色々な種類の記録を知ることができる本のことです。
チェスの魔法本は、西大陸が映った湖の小さなかけらを元に、クロスを持ったチェスのプレイヤーたちの居場所と試合の情報だけを記されるように作られた本だといえます。
鏡の国の者は、魔法本を作る技術を持つ、唯一の一族です。