Ⅲ約束の子 4. 団体馬上試合2
「騎士ロッド。私と一戦願えないでしょうか?」
最初にロッドに立ちはだかったのは、赤のパデュークだった。ロッドは肯った。
「ああ、いいだろう」
「おお、ちょっと待ってくれ。俺はあんたと一戦したいのさ、パデューク卿」
槍を持ったローレルが二人の邪魔をした。
「西大陸でも名をはせた貴公と一戦待ち焦がれていたのさ!」
パデュークはローレルの方に向き直り、相手を見た。屈強そうな大男にパデュークは相手に不足なし、と満足した。ロッドはその様子を見て、パデュークの相手をローレルに譲った。
ローレルは話が決まると槍を構えパデュークに向け馬を走らせた。同じくパデュークはローレルに黒馬を走らせぶつかって行った。二人は互いの胴を突いた。衝突音と共に二人は馬上でよろけたが、両者とも馬に踏みとどまった。馬首を翻した。そしてもう一度ぶつかって行った。何度か繰り返し、衝突後、パデュークの槍が折れた。
「次は剣で勝負をしようぜ! パデューク卿!」
「承知した」
二人は馬から降り、己の剣を交わし合った。ローレルは力強く相手の頭を狙い、パデュークはそれをかわしながら急所を狙った。決着はなかなか付かなかった。ローレルの一撃をかわしたパデュークが相手の首元に剣を突き付けた。
「これで良いかな、騎士よ」
パデュークが涼やかな声で終わりを告げた。大男はにっと笑った。
「あんたの勝ちだ」
ローレルは負けを認めると、その場に座った。
「自陣に連れて行くかい? それとも身代金の交渉をするか?」
パデュークは大きく首を横に振った。
「貴公は強い。私は他の相手を探すだけだ」
そう言ってパデュークは再び黒馬に乗り、新しい槍を得ると、ロッドを探しに行った。ローレルは少し休むと立ち上がり、他の相手を探した。
ロッドは丁度一人を自陣に連れて行き、それから休憩地に寄り一休みしているウォールナットに挨拶した。
「紅白どちらが勝っているだろうか?」
「あなたの奮闘で白が圧しているようですよ」
「そうか。グリンスリー卿は?」
「彼も功労者として一二を争うぐらい活躍していますよ」
「試合はまだ分からないな、ではまた」
ロッドが休憩地から離れると、パデュークが現れた。
「騎士ロッド、今度はあなたに挑戦したい」
ロッドは快く挑戦を受け入れた。
「貴公の名前は西大陸でもよく聞こえてくる、パデューク卿」
二人は槍を構え向かい合った。そして互いの胴を目掛けて突きあった。何度か繰り返すうち、パデュークの槍が折れ、落馬した。ロッドは自分も馬を下りた。
「さぁ、次は剣で勝負しよう」
しかしパデュークは首を横に振った。
「いいえ、私の負けです、ロッド」
パデュークは体勢を整えると黒馬に体を寄せた。落馬で軽く足に怪我をしたようだった。
「自陣に連れて行くなら従いましょう」
今度はロッドが首を横に振った。
「いいえ、パデューク卿。少し休んで、また他の者と戦って名誉を得て下さい」
そう言うとロッドは愛馬に乗り、その場を離れた。
日が傾いてきた。血気盛んに戦う者は相手を探し、休戦する者は昔馴染みと会話をし、捕虜に囚われたものは戦いの様子を眺めていた。ロッドは捕虜を自軍の陣地へ連れて行くウェイに会った。ウェイは捕虜を陣地に預けると、軽快な声でロッドに声を掛けた。
「やぁ、ライバルよ! そろそろここで一戦といかないかい?」
ロッドは肯った。
「私も貴公を探していた所だ、ウェイ・グリンスリー卿」
ロッドの乗る白馬とウェイの乗る赤馬が睨みあった。両者はそれぞれ新しい槍に持ち替え、距離を取った。辺りが静かになった。紅白のプレイヤー同士の戦いに、観戦者たちは視線を集中し、周りの戦っていた者たちも足を止めてじっと見つめた。
ロッドとウェイは身構えた。そして愛馬を走らせた。二者がぶつかり合うと、その衝撃で馬が嘶いた。両者とも体勢は崩れず、通り過ぎた。二人は見計らったかのように同時に馬を翻し、再び駆けた。ロッドの長い槍がウェイの盾に当たった。ウェイは一度身を崩したが、良く鍛えた下半身で落馬を免れた。二人は再び馬首を翻し相対した。三度目の攻防。ロッドは再びウェイの盾を力強く突いた。ウェイの槍は折れて、体勢を崩した。
その時、観客の一人が空を指さした。そこには二頭のペガサスが空で対面していた。
観衆の一人が叫んだ。
「猫が現れた……!」




