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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅲ 約束の子
43/259

Ⅲ約束の子 3. 領主の城1

 それからロッドとプロミーは女騎士メルローズやウォールナットたちと共に町外れの領主の城まで行った。城門の前の広野では馬上試合に参加する騎士や領主たちが色とりどりの天幕を掲げて祝祭を待っていた。その中には天幕の細い道を縫うように花売りが軽やかに歩き、軽食を売る者が明るい声で歌っていた。


 ロッドたちは城門を通り城に入った。城の中は諸国の騎士たちで溢れていた。その中では明日の試合で赤に付くか白に付くかを語る者や、ライバルに宣戦布告をする者や、想い人からの形見を見せどんなに高貴な人かを周りに説く者などもいた。ロッドたちは領主フロムに顔を合わせるため城主の間へ向かった。


 城主の間ではすらりとした中年の男性と、額に金の輪を乗せた細身の女性が、リュートを持った吟遊詩人の歌を聴いていた。ロッドは城の主に挨拶をした。


「ご無沙汰しておりました、フロム公。明日の馬上試合に参加したく参りました」


 領主フロムは鷹揚に頷いた。金の輪を頭に乗せた王城守護魔術師の女性が答えた。


「待っておりましたよ、ロッド。赤のグリンスリー卿は昨日参られました。明日は良い試合を愉しみにしておりますよ」


 そこでロッドと騎士たちは城主と語り合った。その間、ガーネットはプロミーにささやいた。


「この間に、剣術を教えるわ。下へ行きましょう」


「ロッド様……」


 プロミーはロッドに目で尋ねた。ロッドは頷いた。主人の了承を得ると、プロミーはガーネットと共にその場を離れた。


 城の中庭には噴水広場があった。そこでガーネットはプロミーに剣術の基礎を教えた。プロミーは剣術の指南を受けている間、顔つきが変わった。まるで剣の使い方を元から知っていたかのように覚えるのが早かった。夕方近くまでその場で指南が続き、日が傾いた頃、二人は城主の間まで戻った。



 城主の間には多くの騎士たちが集まっていた。部屋には食卓が用意され、夕食が饗されていた。牛肉、鶏肉、羊肉、スープ、粥、調理した野菜、りんごや梨などの果物。騎士たちはそこで出された酒杯を干し、酩酊する者もちらほらいた。この風景をプロミーは見覚えのあるもの、と思った。それを思い出そうとしていた時、ウォールナットが辺りの聴衆に向け、声を掛けた。


「私は去年、観戦者用クロスを教会から借りた。クロスを持つ者は塔の中の本の町に仕える女神に見守られるとされるが、私のはなぜか“女神”ではなく青年なのだ。どうやら“女神”の兄らしい。今まで聞いた中でも私だけらしい」


 ウォールナットは嵌め石のないクロスを首から外し、その場にいる者に示して見せた。


 その後も、騎士たちの宴は続いた。プロミーはロッドに付き従いながら、辺りの様子を窺った。赤の騎士ウェイも会場におり、赤いリンゴを一つ頬張っていた。そこへ先ほどの吟遊詩人がプロミーに話し掛けた。


「初めまして、プロミーさん。私はルイ・グリムと申します。チェスがお得意だと聞きましたが、本当ですかい?」


 吟遊詩人はプロミーに果実酒を勧めた。プロミーは礼を言って杯を受け取った。


「はい。私に分かるのはチェスのことと、あと、青年王の話が少し思い出すことがあります」


 吟遊詩人はにっこり笑った。


「今も何か話せますかい?」


「それは、ええと……」


 プロミーは一つ思い出すことがあった。プロミーはオリシスの時と同じように、我を忘れたような語り口で、昔話を一つ語った。いつの間にか辺りの騎士たちはプロミーの話を座興のように聴き入った。


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