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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅲ 約束の子
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Ⅲ約束の子 2. 騎士の町2

「あなたは西大陸の騎士の世界を知らないんでしょ?」


 従者ガーネットが年上気分でプロミーに尋ねた。プロミーは正直に頷いた。


「はい。記憶がないのです」


「じゃ、私が従者の先輩ね。この世で一番の騎士はメルローズ様。これは絶対」


 通りを歩きながらガーネットは自分の主人をべた褒めした。


「おい、ガーネット。すまない、プロミー。ガーネットはいつもこんな感じだから……」


 メルローズが小さな声で謝った。


「従者っていうのはね、自分の主人が一番なのよ」


 ガーネットは力強く説いた。


「西大陸の騎士の子は、七歳頃からよその城へ預けられ小姓をしながら礼儀作法を覚えるの。そして十二才になると騎士の従者となるのよ。そして十八才から二十一才くらいで王から金の髪飾りを与えられて騎士になるのよ。その後王城で働くか、そのまま遍歴を続けるかは自由なの」


 その時町中で褐色肌の青年が通り過ぎた。騎士風の身なりである。が、西大陸の騎士の証である金の髪飾りをしていなかった。


「パデューク卿」


 小声でガーネットが教えた。


「あの騎士はね、中央大陸の出身よ」


 精悍な顔つきの騎士は同じく精悍な黒馬を連れて城へ向かって歩いて行った。


「あの方はね、西大陸に深い想いを秘めた乙女がいてね、各地を遍歴して強さを磨いているのよ。本当に強くなったと自分で認めたら、その時は乙女の元に金の髪飾りを受け取るそうよ」


 ガーネットはロマンチックな恋路を讃えるように話した。



 歩いているうちに大きな酒場に辿り着いた。そこでは旅人たちや地元の人たちが食事をし、寛いでいた。ウェイは店の主に頼んで、石製のチェスセットを借りた。プロミーとウェイは店の奥に席を取り、チェス盤に向かい合って座った。その隣の席でメルローズとガーネットが観戦した。


 ウェイはのらりくらりと試合を進めた。二つのナイトを巧みに動かし、掴み所のない攻撃を重ねた。プロミーは淡々と駒を進めながら、注意深く思案した。オリシスの賭けチェス指しより腕が上だった。それからじっくり攻防が進み、プロミーは何度か王手をかけた。


「チェック」


 込み合う酒場に大柄な騎士が一人ずかずかと足を踏み入れた。新たな客は賑やかな店の中を見渡し片隅でチェスを指しているウェイの姿を見つけると、古き知り合いに挨拶するようにかの者の元へ歩み寄った。が、背後に迫るといきなり戦斧を力一杯振りかざした。


 辺りにいた店の客たちは息を飲んだ。しかしウェイは気付かぬように、チェスの盤面を見詰めていた。口元には不敵な笑みが浮かんでいた。そしてそっとチェス盤の端に手を掛けた。


「よぉ! ウェイ・グリンスリーッ……!!」


 大男は声と同時に白い丸帽子目掛けて思いっきり武器を振り下ろした。名を呼ばれた者はそれより素早く立ち上がり石のチェス盤を頭にかざして不意の攻撃を受け止めた。


「……」


 騎士たちの荒っぽい挨拶を、声を殺して見つめていたプロミーに、ウェイは軽くウィンクした。


「チェスというのは、戦うだけではなく身を守る盾ともなるものさ」


 辺りに散らばった駒を見て、従者の少女が小声で主人にささやいた。


「でも、今のはきっとチェスで劣勢だったからですよね、メルローズ様」


 ウェイは服を払うと、新たな客に向かって言った。


「殺気が強過ぎる。私の命を狙うにはな。ローレル」


「やぁ、ウェイ。久しぶりだな」


 ローレルと呼ばれた騎士は低い声でウェイに答えた。ウェイはその場の者に新たな騎士を紹介した。


「彼はローレル。古い戦友さ。馬上試合では赤に付くだろう?」

「いや、白についてお前を狙う。他にも狙いたい奴が大勢いるからな」

「だ、そうだ。そっけない奴だ」

「赤のナイトは人望ありませんね」


 ガーネットが主人に小さく呟いた。


「……あの、チェスの試合はどうしますか?」


 プロミーが駒を拾いながら、ウェイに尋ねた。チェスボードは切り傷が付いてぼろぼろだった。ウェイは余裕のある笑みで返した。


「君の一勝でいい。また今度、試合をしよう」


そうしているうちに、ロッドとウォールナットたちが酒場に訪れた。


「お昼時なので、僕たちはここで食事を摂ろうと思います。その後フロム公の城まで行きますが、皆さんご一緒しませんか?」


 ウォールナットがその場にいた者たちに丁重に尋ねた。


「お誘いありがとう。悪いが私たちはここを離れる。知り合いが町を通るかも知れないので、城には夕方行くことにする」


 ウェイが店主に金貨を一枚手渡すと、ローレルと一緒にここから離れることを告げた。


「私たちは一緒に行こう」


メルローズは答えた。プロミーに配慮してだとロッドは受け取った。そして一行は食事を済ますと城まで向かった。その道の途中、プロミーはガーネットに耳打ちした。


「お城に着いたら、どうか私に剣術を教えて下さい、ガーネットさん」


プロミーは従者の先輩に頼んだ。ガーネットはプロミーの真剣な面持ちに打たれて答えた。


「半日じゃできることが限られるけど、基礎なら教えられるわ」

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