XV-ii 赤いドレス (9月31日) 8. 料理の皿
「王よ、不思議な話がある」
夜のこと、王の私室で寛いでいたアキレスはデンファーレ王に料理人から聞いた話を話した。
「プレイヤー達の労いの場で、料理の皿が一品多かったそうだ。それは自分たちで作ったものではないということで、不思議がっていた」
デンファーレ王はふっと笑った。
「それはウィンデラのシーフが持ってきたものだ」
「そうか……。そのように明日料理人に伝えておこう」
「シーフの親方は赤の国に賭けたと聞いたが、礼をせねばなるまいな。フローにも賞金を与えねばなるまい。誰かウィンデラに人を送らなければ。そうだな……メルローズ卿がいいか。おそらくウィンデラの旅道具屋に用事があるはずだから使者としよう。さっそく明日、メルローズ卿にこのことを伝えて欲しい、アキレス。メルローズ卿が旅立つ前にな」
「承知した」
「スターチスの国の直轄領だったフェネルの町を失ってしまったな。今回のチェスで悪名が広まり、あの町の信頼を失ってしまった」
アキレスは言った。
「私は王は最後よく戦われたと思う」
「勝敗は兵家の常という。一つの試合にこだわっていては王は務まらない。次にスターチスと盤上でチェスの試合をする時は勝ちを譲る気はない」
負けず嫌いの王は不敵に笑った。
「アキレスも私の戦いに付き合ってくれて感謝している」
王は窓側の長椅子に座るアキレスの隣に座った。金の髪を愛撫した。アキレスは応えた。
「私はこれからも王を支えよう」
れいしと温は大図書館二階総合カウンターへ向かっていた。
「私はカウンターに用事があるのだけれど、温はどうする?」
「その用事って、もしかして王様探し?」
勘の良い温はれいしの考えを当てた。
「ええ。今日はこのまま大図書館にいようと思っているんだけど……」
「うん。それなら私も付き合うわ。逆にさ、私がいてもいいの?」
れいしは微笑んだ。
「ええ。一緒にいてくれたら話も弾むでしょうね」
れいしはカウンターで七月にクロスを渡された若い司書に尋ねた。
「駒のクロスは全部返却されましたか?」
若い司書は答えた。
「こんにちは、松原さんと高田さん。まだ赤のキングのクロスを持つ読者が返却していません。今日までなので、これから来ると思います」
「教えて頂いて、どうも」
れいしは嫣然と微笑むと、カウンターが見える席に座った。れいしと温は赤のキングの読者を待つことにした。
「正反対のカップルでしょう、王とアキレスは」
「冴の、じゃねーや、ジャスミンの言葉では不仲を疑うようなことを言ってたよね」
「ジャスミンの勘が正しいかは分からないけれど、王とアキレスはお互い補い合いたいのだと思うわ」
「デンファーレの花言葉は“似合いの二人”だしねー」