XV-ii 赤いドレス (9月31日) 7. 中性という性別
「試合に負けてすまなかった、王よ」
赤の城の労いの会で王城守護魔術師のアフェランドラは、デンファーレ王に謝った。デンファーレ王は笑った。
「気にすることはない。勝敗は時の運だ」
アフェランドラも笑った。
「我は久しぶりに試合を楽しませてもらった。勝てなかったのは悔いが残るが、良い相手だった」
「私も良い戦いだったと思う」
王の隣にいたアキレスがアフェランドラを労った。アキレスは言葉を続けた。
「戦いには相性がある。相手は長年ルークを破ってきた相手だった。アフェランドラは魔力でも負けてはいなかっただろう」
「女王の言う通りですよ、お姉様」
スクアローサが姉に優しく言った。
「スクアローサの戦いは見事であった」
デンファーレ王がスクアローサを褒め称えた。スクアローサは礼をした。
「ありがたきお言葉、光栄でございます」
笙子は自分の性別を中性だと淡く思っていた。中性とは言っても、女性と中性の間、という感じだった。
幼稚園から小学校低学年の間は、姉の夾子とお揃いの服を喜んで着ていたが、小学校の高学年くらいから何となく服は中性的に見えるものを好むようになっていた。女性と見られても嫌だとは思わないが、中性的でいる時が自分らしくて落ち着いた。自分のことを僕と呼んでいたのは、幼稚園の頃からずっとだった。
男らしくなりたいとか、女扱いが嫌だとかは思わなかった。中学校や高校は女子高であり、そこでも中性的キャラとしてクラスから受け入れられていた。
姉は笙子を小さい頃から分身のように可愛がってくれた。が、笙子はいつからか分身を止めた。夾子は変わらず笙子を認めてくれた。
ある時、姉から質問された。
「笙子は『妹』でいいのかしら?『弟』の方が良くって?」
笙子は答えた。
「僕は『弟』ではございません。『妹』の他にいい言葉が無いので、僕は『妹』で平気です。お姉さまが呼ぶ言葉が好きです」
夾子は微笑んだ。
「そうですの。可愛い笙子。あら、可愛いとか言われたら嫌ですの?」
「僕は四分の一くらいは女性だと思っているので、お姉さまの言葉は嬉しいです」
今年は“The Chess”で駒のクロスを借りた。夢の中の人物は赤のルークのスクアローサだった。スクアローサは女性的な人物だった。笙子は女性への憧れとして夢の中の人物を見ていた。女性読者が男性キャラクターを見て楽しむように、笙子は『異性』を楽しんだ。スクアローサも姉が好きであり、共感した。スクアローサは最後に白の昇格したルークのパズルの創った異空間を解いた。活躍と言えばそれくらいだったが、夢は楽しかった。来年は姉は卒業していないが、笙子は来年もまた“The Chess”を借りようと思っていた。