XV-ii 赤いドレス (9月31日) 5. 秘伝のタレ 1
パズルは白の王城で祝祭が終わると、改めて親方に遍歴修行の旅立ちの挨拶をするために、工房のあるイリュイトの町へ帰郷した。エンドとは王城で別れて、別の道をとっていた。親方は工房の入り口で弟子を出迎えた。
「やぁ、お帰り、パズル」
親方は心地よい低い声で迎えの言葉をパズルに向けた。パズルは約一ヶ月工房を空けただけであったが、懐かしい声のように感じた。パズルは元気よく挨拶を返した。
「チェスから戻って参りました、親方!」
親方は工房の奥の方へ目を遣った。
「パズル、一週間前に、お前に用がある旅人がここに訪ねて来たぞ」
パズルは知り合いに自分を訪ねる人が思いつかず、親方に尋ねた。
「どんな人でしたか?」
「それが、三角帽子に緑のケープを纏った少年で、もう少しでパズルが戻ると伝えても留まることを遠慮して、ただ約束の物を置いていきたいとのことでさ。台所に小さな壺が置いてあるから、確認してくれないか。何でもウナギのかば焼きの“秘伝のタレ”だとか言ってたぞ」
「えっ!?」
パズルは意外な訪問者に驚いた。リアはチェスの最終日、赤の王城守護魔術師のアフェランドラの異空間魔術の中で別れて別行動になって以来、会っていなかった。リアは、白の王城の祝祭にも参加していなかった。
パズルは台所へ向かった。調理台の上には茶色の小柄な壺が置いてあった。ウナギのかば焼きの調理方法はリアから聞いていた。壺を空けると、こげ茶色のタレが入っていた。パズルはお礼が言えないもどかしさに苦笑したが、今度エンドと会った時は、この料理を振る舞おう、と思った。