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XV-ii 赤いドレス (9月31日) 4. 僧侶と少年 3
休日のつつじ女子大学の圷教授の部屋で、滝は部屋の主と雑談していた。滝は圷教授のゼミ生である。圷教授は軽い相談事や流行のガジェットの話をするなど距離の近い人だった。
「それでフローはクオとガーラと旅立つことにしたんだって」
滝は今日届いた『The Chess』の後日談を部屋の主に語った。圷教授は『The Chess』について密かに研究している。滝は物語の内容を保存したカードを圷教授に貸していた。昔からこの気さくな教授は仲の良い学生から話を収集していた。
「話をありがとう、甲府さん。いやー、話を聞くだけなのがもどかしいなぁ。俺がクロスを借りられたらなぁ――分解してみたいのに」
圷教授は扇子でぱたぱた顔を仰ぎながら笑った。冗談とも本気ともつかない、いつもの軽い口調だった。物騒な発言であるが、滝はこの教授の淡々としたマッドな一面をよく知っていた。滝は来年もこの教授は外側から『The Chess』を見守ることを思った。