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The Chess  作者: 今日のジャム
XⅤ-ii 赤いドレス
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XV-ii 赤いドレス (9月31日) 3. 銀魚

 リュージェは王城から帰郷してしばらくサランの町にいた。その間、長くなる旅の準備をしていた。チェスのゲームの中、異界の旅人であるリアは、『塔の町』へ行くために銀魚を呼び出す道具を与えてくれた。『塔の町』は異界の中でも最も遠い所だと伝えられている。それゆえ、リュージェは旅支度を慎重に丁寧に行った。今度の旅は一人旅である。危険にも立ち向かわなければならないと覚悟しながら、王城で貰ったお祝い金を使い、旅支度を進めた。


 支度が整うと、リュージェは町の教会の僧侶に長く家を空けることを伝え、それからサランの町から出た。スカートの右ポケットにはねずみのワインを連れていた。


 川辺に添って道を歩いた。人の少ない場所まで来ると、リュージェは川岸に立った。川は広く、銀色の川面は昼の光に当たり、川底の水草まで見えた。


 リュージェはリアから貰った巾着を左ポケットから出すと、灰色の角の取れた石を取り出した。見た目は何の変哲もない小石だった。一旦息を吐いてから、リュージェはその石を川面の真ん中に放った。水面には波紋が出来た。その円い波紋が少し経つと幾何学模様を描いた。そして小さな光を放った。


 幾何学模様はたゆたう波と共に広がり、銀色の川面には大きな魔方陣が現れた。リュージェが感心していると、川の水草の間から魚の姿がひっそりと出現した。その魚は大きい。魚は川面の上に浮かび上がってきた。まるで空気が水中だというように。大魚はリアとの旅の時と同じように、全身が銀色だった。


 リュージェは魚に声を掛けた。


「ラムネさん、お久しぶりです」


 銀魚は水中から飛び出すと、リュージェの立つ川岸に乗った。リュージェは、銀魚の大きな眼の前に立って話し掛けた。


「これから『塔の町』へ行きたいのですが、空間を渡ってその異界へ連れて行ってくれませんか?」


 リュージェの問いに銀魚の答えは無かった。しかし、銀魚は沈黙は肯定であるように、大人しく新たな旅人が背に乗るのを待っていた。リュージェは大きな魚の背に乗った。見晴らしが良かった。銀魚は背に人が乗ると、のっそりと空中を浮上した。塔の町は『ここではない場所の中で最も遠い所。そして最も時間の遅い所』と呼ばれている。


 資料本製作者は異界の知の都へ向けて旅立った。


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