XV-ii 赤いドレス (9月31日) 1. 小鹿
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<From> 私立つつじ女子大学図書館
<Title> The Chess
シエララントの王城を囲む草原に小鹿が一匹草を食んでいた。王城では祝祭が行われ、客人が城の外を行き来していた。
「ありがとう、キャラメル。プロミーを赤の王城まで連れて行ってくれて」
小鹿は顔を上げ、金の髪の上に王冠を頂いた初めて会う者を見た。瞳の色がプロミーと同じ色であった。小鹿は挨拶するように黒い目を輝かせた。
「あなたを赤の城からここまで送ってくれたのはリアですね」
小鹿は頷くように首を下げた。語る者は小鹿の首を小さく撫でた。
「あなたがリアの相棒の鹿ココアの子孫で、リアがロッドの前にあなたを召喚してくれたのですよね。プロミーの旅に寄り添ってくれて助かりました」
小鹿は旅の友を懐かしむように語る者を見た。
「もう少しだけここにいてくれますか」
スターチス王は秘密を楽しむように微笑んだ。
「綿ちゃんって“The Chess”読んでたんだよね?」
音楽準備室で鞄を取り帰り支度をしていた生穂は、その狭い部屋で綿と顔を合わせた。綿は少しびくっとしながら生穂を見た。“The Chess”はクロスの盗難に遭い、少し暗い話題だった。クロスを盗んだのが同級生で、クロスは戻ったと大図書館から伝え聞いていたが、盗難のショックは大きかった。
生穂は少し陰が差した相手の様子を見ながら言った。
「私も“The Chess”読んでたんだ。今日後日譚の物語が届いたんだよね。綿ちゃんも?」
生穂は綿とは今まで話したことがなかった。綿が答えた。
「うん。私のクロスはピアスン・ワトソンなんだけど、家に帰って二人の母に王城であったことを話している物語が届いたよ。生穂ちゃんは誰の夢だったの?」
生穂はにゃははと笑った。
「私は白のポーンのプロミー。今日は王様の物語が届いたんだよね」
「白の王様ってことは、紅雲楼で脅かされていたっていうのは生穂ちゃんのことだったの?」
「うん。お姉ちゃんがロッドだったんだけど、その件はお姉ちゃんが解決してくれたんだ」
生穂は事件を引きずることなく明るく答えた。綿は同じく“The Chess”で事件になった出来事を詳しく聞きたくなった。
「……もしかして、生穂ちゃん今日はこれから暇?」
綿は思い切って生穂を誘ってみた。生穂は笑って答えた。
「暇だよー。これから大図書館行く?」
「うん、いいね。静かな場所を教えるよ」
「着いたら“The Chess”読ませてね」
生穂は明るく言った。