XⅣ 僧侶と魔女 2. 回復したクロス
「ジーク! この者はブラックベリの不正と戦った者なのだぞ!!」
メルローズは青年を引き止めるように声を枯らせて叫んだ。ジークは騎士に振り返った。
「ええ、承知していますよ」
そして再び僧侶を見た。
「こちらの懐に入り過ぎたのですよ」
マーブルは錫杖を支えに立ち上がった。手にはブラックベリから取り戻した白の駒のクロスを握っていた。
「これを白の王城まで送る暇を貰えますか」
ジークは、笑った。
「ええ、どうぞ。私とは関係ありませんから」
マーブルは懐から一羽の虹色の伝書鳩を出した。僧侶は連絡用にいつも懐に小鳩を入れていた。マーブルは失われていた白の駒のクロスを小鳩に託し、放った。
白の駒のクロスを送り届けた様子を見ると、ジークは僧侶を見た。
マーブルは自分のクロスをジークに差し出した。
「私に戦う力は残っていません。これはあなたに差し上げます。ビショップは戦いは役目ではないのです」
ジークは僧侶からクロスを受け取った。
「試合は不戦勝、ということですね」
その時、聖堂に騎士が一人入って来た。白のナイト、ラベルだった。ラベルはマーブルの方へ向かった。
「お疲れ様でした、マーブルさん」
騎士は僧侶を労った。
「私はシエララントの王城に戻ります」
マーブルはふらつく足を錫杖で支えながら言った。ラベルが肩を貸した。
「聖堂の外の大鳩の所まで送りましょう」
ラベルはマーブルを鳩の元へ送り届け、王城へ帰る所を見送った。そして聖堂に戻って来た。
メルローズは決心の固まった顔でラベルに言った。
「このクロスを預ける、ラベル。不戦勝として教会に渡してくれ」
ラベルは尋ねた。
「どういうことですか、メルローズ卿?」
メルローズは自分が正しいと思う道を伝えた。
「私はロッドと不名誉な戦いをした。しかしブラックベリの不正を辿るためプレイヤーのままでいた。頑なだったロッドの意志もそこにあったのだろう。今不正は正されたので、私の役目も終わった。どうか私の名誉を守るために、このクロスを預かって欲しい。たぶんマーブルだったら『あなたに咎はありません。だから私は受け取れません』と断っていたと思う」
「もったいないですね」
ジークがやれやれというそぶりをした。このポーンには志の高さが分からなかった。ラベルは突然降って湧いた役目を引き受けることにした。
「残念ですが、それでこそメルローズ様ですね!」
ガーネットが主人がラベルにクロスを渡す所を見て言った。ラベルはこの状況も白の王城にいるレンが読んでいたことなのだろうか、とふと思った。ジークがラベルを見た。
「それで、私と戦うのですか? ボースト卿」
ラベルを見つめるジークの灰色の眼は戦いの心構えができている者の眼だった。ラベルは挑戦を断った。
「多分、あなたには敵いません、ジーク。私はこのままこの町で他の方々の様子を見ます」
「そうですか」
ジークは高まっていた戦意を忘れたように呟いた。
「そろそろゲームも終わりそうですしね」