XⅢ-ii 余韻と休息 (8月29日) 4. 伴走者
八月二十九日夜、康はベッドの上に座り“The Chess”をじっくり読み返していた。物語は何度も読んでいた。夢の主人公マーブルはブラックベリが隠してしまった白のポーンのクロスを探していた。隠されたクロスを探すのは簡単ではなく、ブラックベリと情報戦を繰り広げていた。マーブルは隠れた不正を正すために戦っていた。康は主人公と自分を重ねた。
夏休みの間、康は“The Chess”にはまっていた。マーブルの焦燥と重たい責任感が自分の夢に映し出されて、主人公と思いを重ねた。不正を正すのは難しい。しかし諦めないマーブルに強い心を感じ、応援した。康はマーブルに伴走するように物語を読んだ。そしてそのうちマーブルと心を同期した。
八月五日に“The Chess 情報倉庫”の秀にあらすじを教えてサイトに載せてもらっていたが、八月九日の更新分からは“The Chess”が全て終わってから秀に教えることにした。他の読者にとってはネタバレになるからだが、秘密にしておいた方が良いように康には思えた。真から、赤の会合でブラックベリの読者の蛍の話を聞いていた。蛍はブラックベリが“自分の聞いた情報”を使ってクロスを隠したと思っていると話したそうだった。不思議な話であるが、康は何となく信じた。ゆえに慎重でいたいと思った。
“The Chess”の世界では、明日八月三十日は紅白のポーン達がそれぞれ相手の城を攻める決戦の日だった。マーブルにも決着が待っていた。
康は布団に入った。眼を閉じると意識が落ちていき、僧侶の青年の意識が代わりに浮かび上がった。眼を閉じてできた黒い世界が、いつの間にか朝の明るい王城の景色に変わっていた。青年は大鳩に乗ってこれから遠い町を目掛けて旅立つ所だった。
康は眠りに就いた。