XⅢ 赤の城の攻防 4. 女王たちの歓談 2
「もしフローが戦線離脱しなかったら、白の城ではチェックを掛けられていたのでしょうね」
エーデルが草をはむ白馬を撫でながら言った。
「もしくはフローと白の城を攻めた赤のポーンが組んでいたら、白は危うかったでしょう。
オリーブが白への攻め手だったら、ルークとどういう試合をしたのでしょうね」
チェスの間、オリーブは白の城へ攻めることもできた。騎士ラベルと他流試合で戦わなければならないが、得意の魔術で勝つことが出来たかも知れない。そうしたら、ルークの異空間魔術の中でこれを破ることも考えられた。もしくは五分五分でルークの方が上手かもしれないが。オリーブは魔力を扱うクオやエンドと戦うことを選んだ。この選択がチェスらしかった。
「もし序盤でルークが自ら相手の王城へ攻めに行ったら、城を守るルーク同士の対決になって決着が付かないでしょう。私達クイーンも同じですね。『クイーンはチェスの主人公』と言われていますが、実際は互角の相手同士では動きを牽制されてしまいますね。
またはこんな考え方もあるでしょう。白のポーンの攻め手達が一つに集まってルーク一人に守って貰いながら進むという方法が。しかしそうしたら、きっと赤のルークが白のルークを足止めし、白の城の近くにいたオリーブが広範囲にポーンを攻撃して、白は不利になっていたでしょう。
タージェル遺跡のクエストでは、もしブリックリヒトが参加しなければ白の方が王の部屋まで行けなかったでしょう。翌日のロッドとメルローズの戦いにブリックリヒトのクロスを賭けなければ、白の守り手は少し楽だったかもしれませんが、今日、白の城を攻めたポーンはルークにとって相性が悪いので、結局同じようなものですね」
アキレスが「もしも」の話に乗った。
「もし騎士ロッドがメルローズ卿と試合のやり直しをしていたら、おそらくロッドが勝っていただろうと思う。西大陸中でもそう言われているな。メルローズ卿は戦いの時肩で息をしていたし、ロッドは余裕で試合を愉しんでいた」
エーデルはにっこり笑った。
「あの時は王城が慌ただしかったですよ。赤の城では戦略はデンファーレ王が立てているのですか、アキレス?」
「そうだ。王が眠っている時の最終的な決定権は私とルークの二人が主だ。レンという少年はよく見つけてきたな」
「王は青年王に縁の深い少年に戦いを任せたかったようです」
「私はスターチス王の場合、異界の夢は誰が見ているのだろうかと不思議に思っていた。プロミーか、スターチス王か、それとも青年王か?」
「王が目覚められてからお話しをお聞きしたいと思いますが、プロミーは自分は夢を見ないと思っているようです。だからスターチス王でしょう。夜は夢使いの魔法を解いて休むと王は言われていました。聖杯城で異界の女学生に会ったのは、スターチス王だったと思いますよ」
「そうだったのか」
アキレスは再び疑問を呟いた。
「青年王はチェスが終わった後、再び宇宙に戻るのだろうか、エーデル?」
エーデルはふふっと笑った。
「青年王の魂は、スターチス王が年をとられて星送りを行う時、一緒に旅立つのですよ、アキレス。星霜院の魔女が言っていました。その間、青年王は地上をゆっくり旅して愉しむ、ということだそうですよ」
アキレスは白の女王の笑みを理解し、笑った。
「そうか。それは良い」
アキレスは水で喉を潤してから言った。
「紅白お互い半分近くの者が戦いでクロスを失ったな」
「ええ。皆よく戦いました」
アキレスが王城の方を向いた。
「王が私を喚んでいるようだが、行けないな」
エーデルが優しくしたたかに言った。
「ええ、私が行かせません」
「ああ、私は戦っている者に背は向けない」
アキレスは心の中で「王にご武運を」と祈った。