XⅢ 赤の城の攻防 1. 決戦 2
リアはクオとオリーブが去ると、サイトに言った。
「サイト、もう一度弓手を攻撃して下さい!」
青い鳥は再び樹上へ飛び、ピコットの前の視界を遮った。ピコットは今度は仲間の守護が無いので地面に降り立った。
そこへリアは獅子のコインにピコットを追わせた。ピコットは背中の箙から矢を抜き、弓を番えて獅子目掛けて矢を放った。矢は獅子の目の前へ来ると、獅子を守る召喚士の魔術の防御壁で大きく弾かれた。
「ちっ!」と舌打ちすると、ピコットは今度は石の矢を地面に刺して砦を造り、その中に隠れた。獅子は石の砦に体当たりした。魔弓の魔力と召喚士の魔力がせめぎ合う。リアは杖に力を込めた。召喚士の魔力の方が大きかった。石の砦は召喚士の魔力で薄らぎ、消えた。
ピコットは魔弓と獅子が戦っている間にその場を離れようとしていたが、そこにプロミーがいた。プロミーは剣でピコットの動きを制した。
「これで終わりです、ピコット」
「いいわよ、アリス。私は短刀で剣の相手もできるから!」
そう言うと、プロミーの突き付けた剣を弓で力一杯弾いた。そして腰に帯びていた短刀を構えた。プロミーはすかさず次の手を打ちピコットと丁々発止と渡り合った。剣の腕ではプロミーの方が上だった。ピコットは追い詰められ、木に当たり逃げ場を失った。リアの放った獅子も退路を塞いでいた。そこへジャスミンが地面から現れた。
「待って下さい。ピコットさんの助けに来ました」
そう言うと、ジャスミンはピコットの肩を抱き、金属の杖を地に一つ叩いた。まるで落とし穴に落ちたように、二人は地に潜った。その間にリアとエンドとパズルはプロミーの元に来た。
少しすると、同じ場所からジャスミンが現れた。
「ピコットさんは、今休憩中です。私が代わりにお相手しますね」
「ジャスミンさんは何ができるのですか?」
プロミーが丁寧に罠師に尋ねた。ジャスミンは金属の杖で地を叩くと、リア、エンド、パズル、プロミーの地面がすっと消えた。白の者達は森の中の別の場所に移動していた。後からジャスミンが現れた。
「木の根元にいる人を落とし穴で別の場所に移動させることができます」
白の者達はそれを聞くと、さっと木から離れた。ジャスミンは再び木の根元に吸われるように消えた。
「相手は自分が木の根元にいる間は好きな所に空間移動ができ、攻撃者が木の根元に来ると好きな所に飛ばせる。皆はばらばらにならない方がいい」
エンドが仲間に注意を促した。
「あまり戦いに深入りしない方が良さそうですね。それでは僕たちはこの森を抜けて草原に戻りましょう」
リアが言った。そこへ前方に薄紅色の矢が刺さった。すると、森の中で半円形の炎の壁が白の者達の前に立ち塞がった。炎は森の木を燃やすことなく焦げる匂いもしなかった。ピコットは白の者達の後ろの木から矢を放ったのだった。すかさずピコットは白の者達の後方にも薄紅色の矢を放った。白の者達は森の中で幻の炎の壁に取り囲まれた。
ピコットは木から降りるとその場に現れたジャスミンと共に再び姿を消して隠れた。
「この幻影の炎を消せるだろうか、パズル」
エンドはパズルを見た。
「やってみます、エンド。でも時間がかかるかも知れません」
パズルは魔法解除の音楽を奏でた。しかしその音楽は途切れた。再び白の者達の足元に地の矢が刺さったからだった。ひと時足元が揺れ、パズルは集中を失った。エンドは魔槍で、リアとプロミーは杖と剣で体を支え、ふらふらと木の根元に行かないよう注意した。
エンドは魔槍を大きく振り、弓使いのいる方向へ風の刃を放った。風の刃は炎の壁を越え、弓使いの元に迫り、腕をかすめた。ピコットは痛みを顔に表しながら、さっと木から降り、その場にいたジャスミンと地中の通路を使い再び消えた。
ピコットとジャスミン、パズルとエンドの攻防は続いた。ピコットはパズルの集中力が高まった頃現れ、地震を起こして魔法解除を中断させた。
「これでは時間がかかりますね……」
リアが呟いた時、白の者達の元にクオが空間を渡って現れた。クオは早口で言った。
「俺はまだオリーブと決着が付いていない。が、先に仲間を赤の城まで瞬間移動させる」
クオの重たい決心は、周りを驚かせた。プロミーは訊いた。
「クオさんは一緒に行かないのですか?」
クオは首を横に振った。
「俺はここで赤の者達の相手をしている。さぁ、時間が無い!」
「分かった。私たちは先に行く」
エンドがクオを見て重たく頷いた。パズルとプロミーとリアも頷きあった。クオは呪文を唱えた。しばらくして魔術が完成すると、クオは杖を強く地に叩きつけた。エンド、パズル、リア、プロミーが姿が消えた。クオは皆が移動したのを見届けると、辺りに塞がる炎の壁に向けて杖をさっと振った。炎の壁は消えた。オリーブが何もない空間から現れた。
「あら、魔術師さんお一人なんですね。私も白のポーン達の後を追おうかしら」
ピコットとジャスミンも姿を現した。
「皆さん消えてしまいましたね。私はこれ以上はルークの専門ですから追えませんよ」
「ルークの異空間は守備範囲外だわ」
クオはオリーブ一人を見た。そして首に提げていた銀のクロスを外して前へ突き出した。
「魔術師クオ・ブレインは、半ドリヤード、オリーブに“試合”を挑む。場所はジャスミンの罠のない草原だ。オリーブと俺の一対一で試合をしたい」
オリーブは挑戦を受け、笑った。
「いいですよ。待っていましたよ、魔術師さん。私を足止め、ということですね。どれだけ保つか試してみましょう」
その言葉を合図に、クオとオリーブは姿を消し、森の外れの草原に戻った。ジャスミンはピコットを連れて地中のトンネルを抜け、戦う者達を追った。
「私達は観戦ね!」
ピコットは木に登り、観戦席とした。ジャスミンは隣の枝に座り、伸びをした。そして鞄からティーカップとポットを取り出した。ポットから紅茶を注ぎ、寛いで飲んだ。
「ピコットさんもどうですか?」
ジャスミンはピコットに紅茶を勧めた。ピコットは断った。
「さっき休んでいる時に紅茶を貰ったから、もういいわ! 体力回復の薬草茶だから、おかげで元気になったわ。ご馳走様!」
地上ではクオとオリーブが対峙していた。
「プレイヤーを四人も空間移動させる魔術師はルーク以外いないものです。そんな魔力の高い魔術師さんと戦えて光栄ですよ」
オリーブがクオを褒めた。その言葉は慇懃無礼という響きだった。クオは肩をすくめた。
「俺がどれくらい魔力が残っているか知っているのだろ。それを承知で試合を受けて貰ったからには、まぁ、礼儀正しく魔力を全部使って戦わせて貰おうか」
「結構ですね」
オリーブが微笑んだ。
クオが誓言を唱えた。
「チェスを創りし古の魔術師に賭けて宣誓を行う。
我、赤のポーンオリーブに“試合”を挑む。
勝負は魔術勝負。場所は赤の城の草原。
魔力が尽きた方が負けとする。
試合の勝敗が決まるまで、他の者に攻撃することを禁じる」
オリーブが答えた。
「我、偉大なる古のドリヤードに賭けて誓います。
白の者の挑戦を受けて立つことを」
紅白の互いのクロスが淡い光を放った。クオはどれくらい時間稼ぎができるか、と思案した。魔術で四人を空間移動させ、魔力は余り残っていなかった。