Ⅺ-ii 定期演奏会 (8月27日、8月28日) 4. 打ち上げ
定期演奏会夜の部は最後のアンコール曲で盛り上がり、定時の二十時より十分遅れて閉幕した。その後、部員たちはホワイエへ回り来場客を見送った後、楽器を学校まで運搬するトラックに積み込み、会場の片付けをした。それが終わると全員ホールから離れ、二十一時からは大図書館三階西側の研修室Aへと移った。そこでは簡素な打ち上げが準備されていた。
打ち上げはすでにOGや保護者などのボランティアが会場設営をしており、机に飲み物やオードブルなどの仕出し料理が用意されてあった。部員たちはパートに限らず好きな者同士集まり、和気藹々と慰労し合った。
三年生の受験を控える一部の者は定期演奏会で引退だった。最初の三十分くらいは三年生への労いの言葉と色紙と花束の贈呈、三年生からの別れの挨拶などで時が進んだ。部員たちはやり切った満足感と終わってしまった喪失感の中、夏の夜の最後のひとときを明るく愉しんだ。
打ち上げは三年生を送る最初の三十分以外は自由参加となり、長くいる者では毎年二十四時まで残る者もいた。卒業生の挨拶が終わり、その後もしばらく盛り上がったが、夜が更けるとぽつらぽつらと帰宅する部員で人が減っていった。同じパートで帰宅する後輩たちを見送った後、生穂は普段から部内で一緒にいるこがねとその会場を去って廊下に出た。熱気を避け、すぐ近くにあった静かな階段に座って二人は過ぎ去った大イベントを名残惜しんだ。
「本番終わったね。何か夢みたい」
生穂は打ち上げ会場から持ってきた缶ジュースでこがねと静かに乾杯しながら言った。言葉には恍惚と寂しさが混ざっていた。
「なんだかんだ言って忙しかったでしょ、生穂は。でも楽しかったね」
こがねは生穂を思いやるように答えた。生穂は笑った。
「不思議だけど、大変でも定期演奏会の準備は楽しくて、ウチらずっと毎日夢中になっていたよね。明日からロスしそう。三年生でもないのにね」
「だよね」
友人は低い声で頷いた。ひっそりとした夜の空間の中、二人はいつまでも長電話をするようにあれこれと語り合った。その後も二人はまるで魔法の時間が切れるギリギリまで居残ろうとするかのように、静謐な場所で語り続けた。
「何で楽しい時間って続かないのかな……」
生穂は腕時計を見た。二十四時が近いのを目にして、ゆっくり立ち上がった。
「あ、ちょっとトイレに行ってくる。上の階の方が近いからそっち行くけど、先に研修室に戻ってていいよ」
こがねも立ち上がった。
「わかったぁ」