Ⅺ-ii 定期演奏会 (8月27日、8月28日) 3. 夜の部 3
休憩が終わると第二部始まりのチャイムが鳴った。観客は自分の座席に戻り、だんだん会場の照明が暗くなった。それとともに藤色の幕がゆっくり上がった。
ステージには椅子と譜面台とそれぞれの楽器だけが並び、人はフルートとクラリネットとオーボエの数人だけがいた。オーボエの席には、ヴァイオリンを構えている人が一名いた。皆ブレザーの上から白いローブを羽織っていた。指揮台には指揮者はいなかった。舞台の前面には、カラフルなステンドグラスのランプが並んでいた。人のほとんどいないステージで、フルートが音楽の合図を出した。透き通った音が響いた。と、舞台袖から合唱の歌声が聞こえた。
Tis the gift to be simple,
‘tis the gift to be free,
‘Tis the gift to come down where we ought to be,
手に火のついた燭台を持った白ローブの奏者たちが、歌いながら舞台の自分の席にゆったりと歩いて行った。まるで荘厳な儀式を行う教会のようだった。少女たちの美しい合唱は続いた。
奏者が全員席に着くと、燭台を持っていた者たちは火を消し、楽器に持ち替えた。それとともに指揮者が現れ指揮台に上って合図をした。奏者たちは合奏した。音楽は聴く者の心に優しい言葉を掛けた。穏やかな曲は聴く者を“The Chess”の平和な村に佇ませた。
演奏が止むと、灰色のスーツの司会者が再び舞台袖に現れた。
「第二部が始まりました。最初の曲はエルダー・ジョゼフ・ブラケット作曲で『Simple Gifts』。
次はバッハ作曲『主よ人の望みの喜びよ』です」
ステージの照明が少し暗くなった。ステージ上のステンドグラスのランプが色鮮やかに光を灯していた。
ゆるやかな音楽が始まった。真はどこか神聖な場所にいるような気分になった。温かくて穏やかな曲だった。音楽は聴き手をずっとこの空間に浸っていたい気持ちにさせた。
曲が終わると、司会者が舞台に出た。
「第二部最後の曲は吹奏楽でも定番のマスカーニ作曲『歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より』です。イタリア歌劇の名曲をゆっくりお楽しみ下さい」
美しい音色に真は聴き入った。この曲は合唱部分からだんだん盛り上がる様子を初めて聴いた時に感動し、歌劇も見てしまったほどだった。吹奏楽版では、孤高のトランペットソロが好きだった。今宵もトランペットソロがあった。とても堂々とした格好良い演奏姿だった。会場では何かを思い出したように涙する者もいた。
盛り上がりが最高潮になり曲が終わると、ワンテンポ置いてから盛大な拍手が沸き上った。拍手はなかなか止まなかった。拍手の海の中、第二幕の幕がゆったりと下りた。
司会者が幕の外側から語った。
「ここで十分間の休憩を頂きます。その間、クラリネットパートとフルートパートとオーボエパートの三人で、ティンホイッスルと木笛とヴァイオリンのセッションを行います。異国情緒あふれる演奏をお楽しみ下さいませ」
その後、紹介された三人が幕の外の舞台の真ん中に現れた。三人は礼をすると、賑やかな曲を二曲奏でた。海外の酒場に訪れたようだった。ティンホイッスルとは銀色の短い笛で、吹き口にプラスチックの部品が付いている縦笛だった。木笛は横笛で、木でできていて澄んだ音を奏でていた。ヴァイオリンは、これが本業なのかと思わせるほど早いパッセージを難なく演奏していた。三人はひと時陽気に場を盛り上げた。
[引用]
Wikipedia、Simple Gifts、
https://en.wikipedia.org/wiki/Simple_Gifts