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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅺ-ii 定期演奏会
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Ⅺ-ii 定期演奏会 (8月27日、8月28日) 3. 夜の部 1

 今夜もコンサートホールの会場前では行列ができていた。真は昨日よりも三十分早く並んだが、それでも手前には十人程が先に並んでいた。今夜は人が増えるのが早く、今日は行列の後方に“最後尾”と書かれた札を持つ整理係が行列を整えていた。


 今日の客は、中学生と高校生、それに大人が多かった。真は毎年定期演奏会の行列に並んでいるうちに、意外と音楽が好きな一般人が多いことを知った。行列の中で耳を澄ますと、学生時代に吹奏楽をしていた者や、子どもが吹奏楽でコンクールに夢中になり、親が大会に通っているうちに耳が肥え、子どもが卒業しても音楽会を聴きに来る者などがいた。また高校生の子どもに本格的に楽器を習わせている親や、音大生の華やかなグループや、七十才を越えて現役の楽器の修理屋の主人などもいた。吹奏楽が好きな者の中には、毎年遠くまで吹奏楽コンクールの全国大会を聞きに行く者や、他の地域のコンクールにまで足を伸ばす者もいた。


 そういう者たちの中でも、つつじ女子大付属高校吹奏楽部は上手な方である、という評判であった。毎年定期演奏会の動画の一部が大手動画サイトに上げられるが、再生回数は六十万回を超え、コメント欄には『CD化を希望』と書き添えられることが多かった。


 そういう真は、吹奏楽部には入ったことは無いが、楽器は全部言えるし、定期演奏会で行われる定番の曲については何となく知るようになった。テレビで吹奏楽のドキュメンタリー番組が流れると、つい時間を忘れて見るくらいであった。


 十七時三十分、ホールが開場した。ホワイエでは人混みの中、真は昨日と同じ座席を目指して早足で歩いた。今日は夕方のためか、ホールの照明が明るく感じた。ステージは今宵は藤色の幕が下りていた。


 席に落ち着くと、夜の部のプログラムを見た。赤い表紙である。演目に目を通した。



第1部


♪ A.リード 作曲

アルメニアンダンスPart1


♪ ビゼー 作曲

「アルルの女」よりファランドール


♪スッペ 作曲

軽騎兵序曲



休憩[10分]


余興

♪ グリーンスリーブス

(クラリネットパート リコーダー4重奏)



第2部


♪ エルダー・ジョゼフ・ブラケット 作曲

Simple Gifts


♪ バッハ 作曲

主よ人の望みの喜びよ


♪ マスカーニ 作曲

歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より


休憩[10分]


余興


♪ The Pigeon on the Gate

♪ John Ryan's Polka 

(クラリネット,フルート,オーボエパート / ティンホイッスル、木笛、ヴァイオリン)



第3部


♪ラモー 作曲

「優雅なインドの国々」より未開人の踊り


♪恩田せつ 作曲

ガウェインの歌


♪ チャイコフスキー 作曲

バレエ音楽「くるみ割り人形」より花のワルツ


 プログラムの次のページのパート紹介を見た。写真はつつじ市の観光名所で撮影されていた。部員たちは、皆学生服の上に白いローブを羽織っていた。まるで自分たちが良く知る町中に魔法使いが降りてきたような雰囲気だ、と真は思った。


 ページの下には、チェスの一手詰め問題が一ページに一つづつ記載されていた。真は“The Chess”を大図書館から借り、チェスの駒の動かし方くらいは覚えた。この観客席の中で“The Chess”を知っている人はどれくらいいるのか、と真は取り留めもないことを思った。


 プログラムの最後のページには、ビンゴカードはないが、白いサンクスカードが挟まれていた。今日は、部長のメッセージだった。真はその短い言葉を読んだ。


『今宵は音楽の魔法の中へようこそ。皆さまの心が、ひと時ここではない世界を愉しまれることを私たち一同望んでおります。本日は足をお運び頂きありがとうございました。ホルンパート 部長 藤井始』


 真は観客席の後ろを振り向いてみた。今日は子ども連れはおらず、客席中が落ち着いていた。皆、音楽を楽しみにしてきた大人たちだと空気から伝わった。


 真は演奏会が始まるまでの間、チェスのプロブレムを解いていった。



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