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The Chess  作者: 今日のジャム
Ⅺ-ii 定期演奏会
208/259

Ⅺ-ii 定期演奏会 (8月27日、8月28日) 2. 昼の部 2

 十四時。開演の時間になった。再び美しいチャイムが鳴り響き、ホールに綺麗な女性の声のアナウンスが流れた。


「これよりつつじ女子大付属高等学校吹奏楽部 定期演奏会 昼の部を開催いたします」


 観客席が暗くなっていった。ステージの明るさが浮かび上がり、辺りは静かになった。と、舞台の端からブレザー姿の生徒たちが楽器を持ってステージの席に座り始めた。ブレザーは演奏会のための舞台用の衣装で、真っ白な上着に黒のズボン、首元には黒い蝶ネクタイだった。舞台に人が現れると、拍手が始まった。


 五十五名いる部員全員が席に着くと、一足遅れて指揮者の若い女性が黒い燕尾服で舞台端から現れた。再び拍手が大きくなった。指揮者は観客席に一礼すると指揮台に上って演奏者の方を向き、指揮棒をゆっくり振り上げた。


 タッタカタ タッタッ タッタッター


 耳慣れたフレーズが流れた。チャイコフスキー作曲バレエ音楽「くるみ割り人形」より行進曲だった。真はこの曲を生演奏で聴いたのは初めてだった。ぞくぞくした。音楽は『これから何かが始まるぞ』と歌っていた。“ジャン!”で終わると、辺りは一テンポおいてから拍手に覆われた。


 一曲目が終わって拍手が止むと、舞台袖からピンクの華やかなワンピースを着た司会の女性が現れた。スポットライトが女性に向けられた。女性は明るい声で公演の挨拶と自己紹介をした。


「こんにちは。本日はつつじ女子大付属高等学校吹奏楽部 定期演奏会 昼の部にご来場頂きありがとうございます。司会はつつじ女子大付属高等学校吹奏楽部 卒業生 小松和音がさせていただきます。どうぞ宜しくお願いします。


 さて一曲目はいかがでしたでしょうか。皆さまが音楽の中で幻想の世界に足を踏み入れるためにご用意した曲でした。次は明るいおもちゃの曲です。パーカッションパートのおもちゃたちにご注目下さい」


 司会の女性が下がると、再び指揮者は指揮台に立ち、音楽が始まった。おもちゃの交響曲第一楽章。ステージ後方に並ぶパーカッションが、一人一個おもちゃを持って並んでいた。おもちゃのラッパ、かっこう笛、水笛、ガラガラ、小さな太鼓。一番左にいた生穂は小さな太鼓だった。太鼓の音は小さかったが、真の席まで届いた。


 明るく上品で可愛らしい曲の中で、かっこう笛がカッコウカッコウと鳴き、水笛が鳥のさえずりのような音を鳴らす。おもちゃのトランペットと小さな太鼓が曲の中で合いの手を入れる。ガラガラを回す人は思いっきりガリガリガリガリと音を立てる。音楽が流れると、観客たちはおもちゃの珍しきハーモニーにひと時心を躍らせた。


 音楽が終わり拍手が止むと、再び司会の女性が舞台に現れた。


「これより十五分の休憩となります。休憩中も、余興として金管メンバーとサックスメンバーがアンサンブルを行います。宜しければぜひお付き合い下さいませ」


 女性が去ると、藤色の幕がゆっくりと下りた。



 観客席が明るくなった。辺りはトイレに行ったりホワイエで気分転換したりする人たちで通路が混雑していた。真は一度座席の中で伸びをし座りなおした。


 少しすると、ステージ上の幕の外側に黒っぽい服を着た手伝いの大学生OGが現れ、半円形に椅子を五個並べていった。それから間もなく大小様々な金管楽器を持った五人がゆったりとステージに入場した。楽器は先頭から、トランペット、チューバ、ホルン、トロンボーン、トランペットだった。奏者たちはそれぞれの椅子の前に立ち、五人が揃うと観客に向けて一礼した。客席に残った観客の間でまばらな拍手が起こった。五人は拍手が止むと席に着いた。譜面台は無い。一息置くと、第一トランペットが他の四人に目配せし、小さく楽器を振り上げた。音楽が始まった。


 一曲目は優しげな始まりの曲だった。短く一分程度だったが、奏者が良く音を重ね合い、美しい響きだった。真は音楽の素人だったが上手な演奏なのかな、と思った。また一息置くと、二曲目が始まった。印象に残る旋律だった。二曲目が終わると、金管アンサンブルはもう一度礼をして舞台を去った。


 その後、黒子のような手伝いのOGが椅子を片付けて、ステージ中央にマイクを置いた。それが済むと二番目の余興になった。サックスを持った四人組が舞台に登場した。ブレザーからジーンズとTシャツに着替えていた。その後ろを同じ格好でピンクのエプロンを着け頭にバンダナをまいた三人が一緒に並んだ。サックスは、ソプラノ、アルト、テナー、バリトン。バリトンサックスを首に提げた学生がマイクの前に立った。


「皆さん、こんにちは! 私たちサックスパートは、レオン・イエッセル作曲『おもちゃの兵隊のマーチ』を演奏します。この曲は料理番組のオープニングテーマで有名だと思います。本日はこの音楽に振付をして踊ります。では、お楽しみ下さい!」


 奏者の挨拶にちらほら拍手が起こり、それがひくと、楽器を持った四人はソプラノサックスの合図で音楽を始めた。真も聴いたことがある曲だった。観客席では、子どもたちが「アレー!」と舞台を指さしたり、一緒の手振りで踊ったりして楽しんでいた。観客に受けがよく、真も頬が緩んだ。

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